彼はなぜ大艦巨砲を愛したのか?|『市民ケーン』(2)
テーマ発表!!
前回に引き続き、映画「市民ケーン」をベースに新しい物語を妄想します。
※「市民ケーン」のストーリーなどについては、前回の記事をご参照ください。
妄想開始!
嘉村 それではまいりましょう!
三葉 はい。
嘉村 「市民ケーン」は、とある大実業家が死の直前に発した「言葉」の意味を探る内に、彼の「人柄」や、「心の奥底にあった意外な想い」が浮かび上がってくる物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……さて!どんな物語にしましょうか?
案①
三葉 まずは、「市民ケーン」風の物語を作る時に注意すべきポイントを確認しておきましょう。
三葉 ……ですね(より詳しくは前回の記事で)。
嘉村 ふむふむ。
三葉 以上を踏まえて「案①」は……ズバリ!「『市民ケーン』 ~『異世界転生』編」です。
嘉村 異世界転生!
三葉 ストーリーをご紹介しましょう。舞台は異世界。いわゆる「剣と魔法、ドラゴン、中世ヨーロッパ風の街並み」の世界ですね。
嘉村 ふむふむ。
三葉 ある日、人里離れた山奥の粗末な小屋で1人の老人が死んだ。物語はここから始まります。死の直前、彼は思わせぶりな言葉を呟いた。まぁ何でもいいのですが……ここでは「スズラン」にしましょうか。
嘉村 ほぉ。花のスズランですか?
三葉 そうですね。「嗚呼、スズラン……」でガクリ。死因は老衰でした。主人公の死を知り、マスコミが取材を開始。と言うのも……じつは彼は、大英雄だったのです。
嘉村 ふむ。
三葉 数十年前、魔王の軍勢によって世界が滅亡しかけた時……主人公が立ち上がった。そして数人の仲間と共に果敢に応戦し、ついに魔王を打ち滅ぼした。かくして世界は救われた!人びとは主人公を賞賛。彼こそ王に相応しいという声があがった。金も女も名誉も地位も思いのまま……だったのですが、彼は一切を拒否。魔王を倒すや否や、王国に帰還することもなく、姿を消したのでした。
嘉村 ほぉ。
三葉 世間は騒然とした。一体何があったのか!?みながアレコレ噂しましたが……人は忘れっぽいものです。3か月後には、もう彼の話をする者はいなかった。
嘉村 ふむ。
三葉 それから数十年経ち、主人公が死んだ。彼は最早「過去の人」ではありますが……それでも世界を救った大英雄です。だから、マスコミが動き出したのです。
嘉村 なるほど。
三葉 新聞社に勤めるA氏もその内の1人です。A氏は当初、主人公にあまり関心を抱いていませんでした。所詮は「過去の人」ですからね。主人公の最期に立ち会った婆やにインタビューをすれば、それで十分だと思っていた。しかし……ここで「スズラン」です。
嘉村 ふむふむ。
三葉 婆や曰く、主人公は今際の際に「スズラン」と呟いたと言う。はて、スズランとは何か?俄然興味が湧いてきた。かくしてA氏は、本格的に取材を開始した。テーマは「スズランとは何か?」、そして「主人公は一体どのような人物だったのか?」です。
嘉村 なるほど。
三葉 A氏は、主人公を知る人物を探し出し、インタビューを行いました。「かつて主人公と共に魔王を討伐し、いまは家族に囲まれて幸せな余生を送っている元剣士」などですね。
嘉村 ふむ。
三葉 そして次第に……かつて英雄視され、いまでは歴史上の人物となった主人公の「本当の人柄」や「心の奥底にあった意外な想い」が明らかになっていきます。
嘉村 ふむふむ。
三葉 女性に対して初心だったり、辛いものが苦手だったり。大英雄らしからぬところにほっこりしたりしつつも、最終的に明らかになったのは……そう!主人公が異世界からやってきた転生者だったということ、そして最期の最期まで「元の世界に戻りたい」と願い続けていたということです。
嘉村 ほぉ……。
三葉 つまり「大英雄」だなんて持て囃されていましたが……彼の心の中にはいつも「絶対的な孤独」と「深い絶望」が横たわっていたのです。そして彼は絶望の中で死んだ。
嘉村 ふーむ……。ところで「スズラン」というのは?
三葉 ええ、じつは主人公は北海道出身でした。
嘉村 ふむ。
三葉 彼の家の庭には、スズランが咲いていた。つまり主人公にとって、スズランとは「元の世界」を象徴するものだったというわけです。
嘉村 なるほど。
三葉 以上ご説明してきた「案①」を「市民ケーン」と比較してみましょう。
案②
嘉村 続いて、「案②」にまいりましょう。
三葉 はい。「案②」は、「『市民ケーン』 ~『大艦巨砲主義』編」です。
嘉村 大艦巨砲主義!
三葉 「市民ケーン」と比較すると以下のようになります。
三葉 ご覧の通り……舞台は、太平洋戦争から数年後の日本です。そこへ、アメリカの新聞記者(以下、B氏)がやってきた。
嘉村 ふむ。
三葉 B氏が訪日した理由はただ1つ。戦場で散った旧日本軍幹部(以下、C中将)が遺した謎の言葉……その意味を明らかにすることです。
嘉村 なるほど。
三葉 B氏はC中将の友人や知人に会い、インタビューを行いました。そして、次第にC中将の「人柄」や「心の奥底にあった意外な想い」が浮かび上がってくる。さらに、旧日本軍が抱えていた諸問題も見えてくる。
嘉村 ふむふむ。
三葉 すなわち……C中将は大艦巨砲主義者でした。「大艦巨砲主義」というのは、一言で言えば「海戦を制すには、デカイ大砲を搭載した『デカイ戦艦』こそが重要」という考えのことですね。
嘉村 ええ。
三葉 しかし、大艦巨砲主義は最早過去の遺物でした。航空技術の発展に伴い、航空戦力の時代が来ていたのです。
嘉村 ふむ。
三葉 ただし、C中将がそれを理解したのは死の直前。彼は巨大戦艦に乗り、海戦に臨んだ。そして惨敗した。無数の米爆撃機を前に戦艦は何もできず、ただただ無能だった。彼は絶望した。そして部下に謎の言葉を遺し、沈みゆく戦艦と運命を共にした……。
嘉村 なるほど。
三葉 さて話を戻して……C中将は強烈な大艦巨砲主義者。無論「いやいや、時代は航空戦力でしょ!」と意義を唱える者(航空主兵論者)もいましたが……。
三葉 彼は断じで受け入れなかった。絶対に持論を曲げず、反対派を攻撃し、脅し、懐柔しました。
嘉村 マンガ「アルキメデスの大戦」みたいですね。
三葉 はて。C中将は、一体全体なぜこれほどまでに、大艦巨砲に執着したのでしょうか?最終的に明らかになったのは……C中将が性的なコンプレックスを抱えていたということです。
嘉村 ……ん?
三葉 性的なコンプレックスです。
嘉村 ええ。
三葉 具体的には、許嫁を寝取られたとか、惚れていた女にこっぴどく振られたとか、あるいはペニスのサイズに自信がなかったとか。
嘉村 ははぁ……。
三葉 「母なる海」に「デカイ大砲」、そして「性的なコンプレックスを抱えた男」……フロイトを持ち出すまでもなく、みなさんもうおわかりですね?
嘉村 あー……。
三葉 B氏は思う「1人の男のペニスサイズに関する悩みが、何百万の尊い命を奪った……嗚呼、戦争とはなんて虚しいのだろう」。
嘉村 ……。
三葉 そして彼は、C中将の墓の前で手を合わせて呟きました「哀れな中将よ。男の価値というのは、ペニスのサイズで決まるものではありませんぞ」。で、物語は幕を閉じます。
嘉村 なるほど……。
三葉 以上、「『市民ケーン』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(担当:三葉)
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