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Photo by
fukumiminoinu
水平線上の光
パスタ屋に勤めていた頃は年末年始も普通に仕事だったけれど、それでも年の瀬になるとわくわくした。ただし、自分は休めないのだからあんまりわくわくしすると後でがっかりする。だからほどほどにわくわくするよう心掛けていた。
二十四歳の大晦日は、車を買ったばかりというのもあってわくわくを抑え切れず、夜中のシフト明けに初日の出を見るつもりで海へ行った。
その当時はまだ車を運転すること自体が楽しくて、休みの前日はよくシフト明けに無目的なドライブをしていた。横浜から南へ走ることが多く、大体は海に行き着いて、そこで一服してから引き返した。そういうことをしている間に色々道を覚えた。
この時は、行き先ストックの一つだった横須賀のペリー公園へ行った。
夜明け前に着いて車を停めると、やっぱり日の出を見に来たようなのが既に何台かいる。
薄明るくなるにつれて、歩いて来る人が段々増えた。付近の住人だったろう。その人達に混じって海の方を眺めていたら、じきに日が出た。
海から昇る朝日を自分はこの時初めて見た。赤いようなオレンジのような、白いような透き通るような、何ともつかない丸いものが水平線から現れて、海と一緒に光りながら空へと昇る。これは大したものだと随分感心したのを覚えている。
日が昇ったら、もうあんまりのんびりしていられない。元旦も昼からシフトに入っているので、コンビニのパンを朝食にして、横浜へ帰った。
帰った後はシフト入りまで四時間ばかりあったけれど、寝ると遅刻するのに決まっているから寝ないで出勤した。
店に行ってから「初日の出を見てきました」と言ったら、店長が「大丈夫か?」と困った顔をした。
徹夜明けの仕事はやっぱりつらかったが、元旦のパスタ屋は暇なので助かった。
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