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赤い世界

 まだ幼稚園にも上がらない頃、祭や初詣の露店でよく仮面ライダーのお面を買ってもらった。
 同じようなお面は今でもあって、娘が幼い頃にはプリキュアのを買ってやったこともあるけれど、あれは元来ペラペラだからすぐに壊れる。大事にしていても、じきにゴムを掛けた部分から破れて来る。それで祭や初詣などで見つける度に買ってもらったように思う。
 仮面ライダーは目が赤いので、お面の目の部分にだけ赤いフィルムみたいな素材が使われていた。だからお面を着けると視界が赤くなり、何だか本当に仮面ライダーになったような、不思議な心持ちがした。
 この体験が元になっているのか知らないけれど、大人になった今でもクリアレッドが好きで、この色の万年筆を愛用している。

 一度、少しばかり違うお面を買ってもらったことがある。いつもの仮面ライダーと違って、目の部分が透き通っておらず、代わりに小さな穴がたくさん開いている。だから面を着けても視界の色はそのままだ。
 買ってもらったは良かったが、せっかくのお面もこれでは何だかつまらない。随分がっかりしたのを覚えている。このお面はあんまり手に取ることもなく、じきに潰れてしまったのではないか知ら。

 ある時、ラップをマジックペンで赤く塗って目に当てれば、例の仮面ライダーみたいな心持ちになれるのではないかと思い付いた。
 早速母からラップの切れ端をもらい、テーブルの上で塗ろうとしたら、「汚れるから新聞紙を敷きなさい」と止められた。
 なるほど、それはその通りだと得心し、新聞の上にラップを手で押さえながら、赤く塗った。広い範囲を塗るのにマジックペンの先はあんまり向いていない。そんなことは子供にわからないから、塗りにくいとも思わずに、ワクワクしながら塗ってみた。事によると口が半開きだったかも知れない。
 そうして出来上がったのを目に当てたら、どうも汚らしいばかりであんまりライダーらしく思われない。
 自分はがっかりして、ラップを丸めてゴミ箱へ捨てた。

エンディングテーマ 『レッツゴー!! ライダーキック』


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百裕(ひゃく・ひろし)
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