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mirecat
咳払いの正体
年末に帰省すると云ったら、幼馴染の小佐田が同級生に声をかけてくれたけれど、存外集まりが悪いようだった。結局、小佐田と紺野と自分の三人きりで、居酒屋のカウンター席で飲んだ。
以前は毎年十人ぐらい集まっていたけれど、今はあんまりそういう感じでもなく、小佐田も紺野も同窓生と飲むのは随分久し振りなのだそうだ。
まとめ役の小澤が先年亡くなって、実行役の藤本もよそへ行ってしまったから、もう大勢の同窓会はないだろうと小佐田が諦めたようなことを云う。淋しいことを云うなと云いたいけれど、実際その通りなので、もうあんまりたくさん集まるようなことはないだろうと自分も思う。やっぱり前回、全体規模の同窓会に出られなかったのが残念な気がした。
帰りに小佐田とコンビニに寄って、伊神が住んでいた家の前を通った。もう伊神もどこかへ引っ越した。連絡先を前に藤本が印刷してくれたが、その紙をポケットに入れたまま洗濯してしまったからもうわからない。
伊神の家には、小佐田に連れられて来たのが最初だった。
「わしゃ初めて伊神ん家に来た時のことを覚えとるよ」
「ほんまね?」
「まだ幼稚園行きおった頃に、あんたに連れて来られたんよ」
「ほうじゃったかいね?」
「他人ん家の塀の上歩いて、庭から入った」
「ああ。わしん家の向かいの家じゃろ。あそこの人は知っとったけぇ、よう塀の上歩きおったわ」
昔、伊神と遊んでいたら、近所のどこかで大きな声で咳払いをするおじさんがあった。それをふざけて真似していたら、伊神のお母さんが「怒られるよ」と言いながら笑った。
小佐田の知っている人とは、そのおじさんだったろう。
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