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エアロスミスを呼ぶ

 ある時、マッコイ君と飲んでいて音楽の話になった。マッコイ君はエアロスミスが好きなのだと云う。
「エアロスミスか。それは何だか意外だね」
「そうですかね?」
「そうだよ」
「何だったら意外じゃないですか?」
「うーん、バラクーダとか」
「何ですかそれ?」
「酒飲み音頭だよ」
「知りませんよ」
「あとは、ずうとるびとか」
「ビートルズじゃなくて?」
「全然違う。『あの娘は宇宙人』だよ」
「全然知りませんよ」
「笑点で座布団運んでる人がやってたグループだぜ?」
「山田君?」
「そう」
「バンドやってたんですか?」
「そう」
「知りませんでしたよ」
「俺もよく知らん」
「知らないのに、人に当てはめないでくださいよ」
「本当はエアロスミスもあんまり知らん」
「え」
「ちょっと系統が違うんだよ。あの映画の曲ぐらいは知ってるがね」
「アルマゲドンね……」マッコイ君は急に眉を顰めた。「……あれはいけません。あれのせいで酷い目に遭いました」
「酷い目?」
「前に友達と、エアロスミスの名古屋公演を観に行ったんです」
「うん」
「ちょうどあの映画が流行った頃で、あの曲だけ聴きに来たようなニワカファンがいっぱいいて、他の曲が全然盛り上がらなかったんですよ」
「そんなことがあるか?」
「あったんですよ」
「随分もったいないチケットの買い方じゃないか」
「そうなんですよ。それで全然盛り上がらなくて、アンコールやらずに帰っちゃいました」
「誰が?」
「エアロスミスですよ」
「そもそもアンコールがなかったんじゃないのか?」
「名古屋だけなかったんですよ」
「それは、つまらんね」
「そうでしょ? 俺らは、エアロスミスーッ! て超盛り上がってたのに」
 マッコイ君はそう言って憤慨した。
 自分は心の中で、こいつはエアロスミスに「エアロスミスーッ!」と呼びかけるのかと感心した。そうして、普通は「スティーブン!」とか「ジョー!」とかメンバーの名前を呼ぶだろうと思ったら、段々ニヤけて、じきに吹き出した。

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百裕(ひゃく・ひろし)
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