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幽霊と珈琲

 名古屋へ来てしばらくの間、休みの日には大体喫茶店か漫画喫茶へ行った。喫茶店では大抵読書をした。漫喫ではひとしきり漫画を読んだ後に店のパソコンからブログの更新をした。
 読書もブログ更新もわざわざ出掛けなくたって自宅でできるが、そうすると休日に家から一歩も出ないことになりそうでいけない。その当時はまだ独身で、独り者が家に籠もって誰にも会わないでいるのはあんまり不健康だから、とりあえず手近な所へ出掛けていたのである。
 後から考えたら、出掛けるにしてももう少し実になる先があったように思われるけれど、それは後から考えたことなので、その時には知らない。
 後になってわかったことを最初からわかっていたみたいな顔をして、君は間違っていたじゃぁないかと責め立てるのは、結果論である。全体、結果論を振りかざすのは碌な人間ではない。

 漫喫でブログ更新をした後は、そのパソコンで映画を観た。映画見放題のサービスがあったのである。これは自宅では観られないから、その点だけは出掛けた意味があったろう。
 ある時、『呪怨』を観た。
 前々から怖いと聞いており、ドキドキしながら観ていたら、冒頭十分でいきなり驚いた。驚いた拍子に、手に持っていた珈琲をこぼした。
「ふあ!」という声も出たから、周りの席でも驚いただろうと思う。
 ああいう驚かせ方はどうもずるいようだし、また「ふあ!」とか云わされるのも具合が悪い。それでもう映画はやめて、珈琲を拭いて帰った。

 この店はその後もしばらく利用したけれど、店主の接客態度が横柄なのが気に食わず、じきに行くのを止した。


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百裕(ひゃく・ひろし)
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