見出し画像

同級生

「急だから、誰が来るかはわからない」と言う小佐田と店へ入ったら、タケオがいた。
 タケオとみんな呼ぶけれど、実を云うとどうも自分は中学時代の彼にまつわる記憶がない。それでも先方はこちらを知っているようだ。それにみんながそう云って話しているから、同窓生には違いないのだろう。
 しかし覚えがないのにいきなりタケオ呼ばわりは何だかしづらい。だから苗字で呼ぼうと思ったら、自分は彼の苗字を知らないのである。事によるとタケオが苗字なのかも知れないが、下手なことを云って、覚えがないのが今更露見するのも気不味くていけない。それで終始知っているような顔をして話していた。
 話の流れでタケオが出して来たスマホの画面を見るのに、メガネを外したら、大木が「老眼か?」と訊いてきた。そうだと云うと、俺は片目だけが老眼なんだと、聞き慣れない事を云った。片目だけが老眼になるなんて、一体そんなことがあるんだろうかと思ったが、当人がそうだと云うのをわざわざ否定したって空気が悪くなるだけだ。
「片目だけか。それは不便だろう」
「いや、そうでもないよ。片目ずつで見えるからね」
 なんのはなしだと思った。
 それから、老眼で一番困ったのはバンドサークルのOB会へコンタクトレンズを着けて行ったらギターアンプの目盛が見えなくて、人を呼んで読み上げてもらった時だと話したら、タケオが「俺もバンドやっていたよ」と言い出した。隣町のカルチャースクールでギターを習ったのだそうだ。それならきっと自分より上手いに違いない。

 家に帰ってから卒業アルバムでタケオを探したら、確かにいた。あんまり接点はなかったけれど、確かにアルバムの顔に覚えがある、なるほど彼かと得心した。
 他にも話に出てきた、覚えのない名前を探してみた。概ね「あぁ、この人ね」とわかったけれど、ヒロムラヨウコさんだけはどうしても見つからなかった。

いいなと思ったら応援しよう!

百裕(ひゃく・ひろし)
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。

この記事が参加している募集