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akankooo
夜犬(Yoru Inu)
榎坂さんとマッコイ君と名駅で飲んだら、随分遅くなった。榎坂さんとは店を出てすぐに別れ、マッコイ君と駅へ行くと、もう自分の方へ行く電車はなくなっていた。
「まいったな、電車がないようだ」
「分川からだと遠いんですか?」
分川駅は線が違うが、同じ市内である。
「方角が違うけれど、行けないこともないか……」
車で十五分ぐらいの距離だから、歩きでも一時間ぐらいで行けそうだ。
「よし、分川から歩いて帰るよ」
「そうですか。じゃぁ、また」
分川駅で降りて、夜中の町を歩き出した。駅前はにはコンビニや深夜営業の店があるから、まだ人通りも多くて存外明るい。けれども道路を渡って住宅地に入ると、急に静かになった。
暗くて静かな通りを歩いていると、電車に乗る前には浮かばなかった景色が、目の前に次々現れる。どうも思っていたより道が長いようだ。
「……うーわ、きっつー……」
暫く歩いて時計を見たら、一時間が経過していた。まだ家路の半分も行っていない。この調子では、いつ帰り着くやらわかったものではない。
季節はもう秋で、暑くはなかったけれど、雪駄履きだから段々指の付け根が痛くなった。雪駄をずらして歩いていると、少し先の暗闇に、自販機が儚と浮いて見えた。
少し休むつもりで缶コーヒーを買ったら、ゴトン! と大きな音がした。近くの庭から犬が吠えた。
地べたに座ってコーヒーを飲みながら、何だかもうこのまま帰れずに、夜を歩き続けるのだろうと思った。
犬はずっと吠えていた。
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