大福、晒し者(2023/05/12)
出社前にコンビニ駐車場に入ろうと思ったら畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)の姿が見えた。目が合うと面倒くさいから入るのをやめてそのまま通り過ぎた。
営業部からの放逐以来、畜山との関係は随分ギスギスしている。これでは何かあった時の部署間連携もやりづらいだろう。
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午後から得意先A社の商談だった。
「百さん、例の件ですけどね…」と、担当が話し始めたが、経緯を語るばかりでなかなか結論を言わない。
例の件というのはこちらが仕掛けた、大きめの案件である。この勿体ぶりようではきっと随分小さくなってしまったのだろうと思ったが、最終的に当初の予定よりもさらに大きくなっていたから驚いた。
ここ10年ぐらいで一番大きな案件になったんじゃないかと言ったら、「取引開始以来最大です」と返ってきた。そう言われると何だか偉業を成したようで気分がいい。だから元々の取引規模の小ささには目を瞑ることにした。
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あんまり気分がいいものだから帰りにコンビニで大福を買った。やたらに粉がまぶしてあって、車の中で食べたらそこら中が粉まみれになった。いくらなんでもこんなに粉を使わなくたっていいだろうと思った。
随分以前、車内に置き去りにされた紙コップの写真を添付して、「社用車内での飲食は禁止です」と総務のフグ田さんが全社員にメールで訴えかけてきた。
社用車を使う時は台帳に名前を書くから誰の仕業かはすぐわかる。果たして最後の使用者は畜山生太郎だった。
「何も写真付きで全社に晒さなくたって、直接言えば良さそうなものだ」と、畜山は後々までぼやいていた。
幸い粉まみれは自分ばかりで車のシートは無事だったから晒し者にされる恐れはない。ただ、スマホの画面も粉まみれで、払っても小さな隙間に入り込んだのが出て来ない。今もフィルムの隙間に粉が残っているのはそのためだ。