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サンドイッチ(さようならロバ先生)

 小四の修了式でロバ先生の悪夢を免れた後、小五・小六は中澤先生のクラスになった。ロバ先生はどこかよその学校へ異動になった。離任式では正装をして、やっぱりロバのような面白くなさそうな顔で何か云っていたようだけれど、聞いてないから覚えていない。それぎり会っていない。年齢からして、多分もう二度と会えないところへいったろうと思う。

 中澤先生はまだ若い男性教師だった。
「みんな、校庭でドッジボールをしよう」
 クラス替えをしてから最初の昼休憩で、先生がみんなにそう呼びかけた。ロバ先生では考えられなかったことである。先生込みのドッジボールは、それから一週間ぐらい昼休憩の度にやった。
 しばらく経ってから、どうやらロバ先生と違って依怙贔屓をするようでもないし、今度は良い先生に当たったらしいと感心したが、それは当たり外れ以前の話だったろうと後になって気が付いた。依怙贔屓をしないなどは教師として当たり前のことで、ロバ先生一人がおかしかったのである。

 ある時、家庭科の実習でサンドイッチを作ることになった。
「どこかの班で、中澤先生に食べてもらう分も作って欲しいんですが……」と家庭科の田中先生が言うと、「えぇ~」とみんな面倒がった。中澤先生は、良い先生の割に児童からの扱いは存外雑なようだった。
 自分は、ふっとあることを思い付き、「是非やろう」と班のメンバーに言って引き受けた。

 実習の当日、先生用に用意してきた辛子とわさびのチューブをそれぞれほとんど一本分パンに塗りたくっていたら、隣の班の岩田さんが、「ちょっと、この人ら、何しよん……」と久野さんに言った。岩田さんと久野さんは仲が良かったのである。
 自分は口の前に人差し指を立てて「しー」と言った。
 出来上がったたまごサンドと野菜サンドを皿に乗せて、班長が先生に渡した。班長が誰だったかはもう覚えていないが、迫田さんではなかったかと思う。
 先生は「おお! ありがとう!」と顔を輝かせたけれど、一口食べると変な顔をした。
 少し離れた所から、岩田さんと久野さんが見ていた。


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百裕(ひゃく・ひろし)
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