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新・車窓から(2) 〜ダッシュと異世界〜

 名古屋を出発すると、次は大垣で乗り換えである。
 昔一人で鈍行帰省した時は、ホームの反対側にもう列車が止まっていて、こちらのドアが開くとみんな一斉に駆け出して席を取った。きっと今回もそうなのだろうと思い、着く前に娘にそっと教えておいた。
「次の駅で乗り換えるけど、走らないと席が取れないから、手をつないでしっかりついて来なさい」
 娘はまた真面目な顔をして頷いた。それから、履いている靴の模様を指で押した。そうすると速く走れるのだと、幼稚園で友達に教わったそうだ。運動会の徒競走でも、走る前に押していた。
 大垣駅に着いたら果たしてみんな一斉にダッシュした。自分らもダッシュして、まんまと席を確保した。名古屋で譲ってくれたおじさんも、ちょっと離れた所へ座れたようだった。
 大垣ダッシュと云う言葉は、随分後になってから知った。

 大垣から田舎の田園風景を抜けて、京都で下りた。前回の鈍行帰省だと、京都では下りていない。わざわざ途中下車するはずはないので、この時の列車が京都止まりだったのだろうと思う。
 次の列車が出るまで四十分以上あった。一人で四十分待ちはどうとでもするが、小さい子連れでは具合が悪い。何とかならないかと駅員に相談したら、ナントカ線の特急でどこそこまで行って云々と教えてくれた。遠回りで余分に金はかかるが、ここで四十分待つよりいいだろう。云われた通りに特急券を買った。
 京都から特急に乗って、その次の乗り換えでは席が空いていなかった。そんなに長く乗るわけではないからいいだろうと思ったら、若者が「どうぞ」と譲ってくれた。こんなに席を譲られたのはこの日が初めてである。
 しばらく山の中を走って、上郡駅で下車した。

 上郡に着くまで、京都から何線でどこの駅へ行ったものか、もう一向覚えがない。ただ、佐用駅へ行って葉山さんの地元だと思ったのは何となく記憶にあるから、随分山の中を走ったのは間違いない。
 今調べてもそれらしいルートが見当たらないのは、パラレルワールドに行ったか、ダイヤ改正の影響だったろう。

ファーストシーズンはこちらから。


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百裕(ひゃく・ひろし)
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