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求人広告
派遣屋の仕事をしていた時、求人広告のアイキャッチにブルース・リーと千葉真一風の人物を描いてくれと広告屋に云ったことがある。
ブルースも真一も仕事内容とは関係ない。冗談半分で云ったのである。きっとそれらしき要素を含みながらあんまり似てないのを出してくるだろうと思っていたら、随分そっくりに描かれたゲラが届いた。
ブルースは黄色いつなぎを着て構えている。真一は白いスーツと黒いシャツを着て不敵な笑みを浮かべている。
こいつまじかと思いながら、眺めてニヤニヤ笑っているところへ電話がかかってきた。
「送りましたけど、見ていただけました?」
「今見てます」
「どうですか?」
「こんなに似せてくるとは思いませんでした」
「そうでしょう。頑張りました」
「これ、誰が見てもブルース・リーと千葉真一ですよね?」
「そうでしょう」
「肖像権とか大丈夫ですか?」
「大丈夫でしょう。絵ですし」
そういうものだろうかと、ちょっと不安になったが、広告屋がそういうのなら大丈夫なのだろう。結局そのまま掲載した。
この広告屋の担当は自分より三つばかり年下で、学生時代から趣味でバンドをやっている人だった。自分もやっていたと教えたら、スタジオ練習を見に来てくれと云い出した。ライブでなく練習を見に来いとは変な話である。
「こんな感じでやってるっていうのを、見てほしいんです」
何のために、とは思ったけれど、ちょうど暇だったから次の休みに行ってみた。
特に上手くもなく、下手でもない、よくあるコピーバンドだった。練習の後、みんなで『さと』で食事をして別れた。
後日、仕事の打ち合わせで、担当が営業所にやって来た。そうして一通り話し合った後で、急に何だか申し訳なさそうな顔をした。
「百さんに、バンドに入ってもらおうと思ってたんですが、メンバーで話し合って、今回はごめんなさいってことになりました……」
「え、入りたいなんて云ってないぜ?」
「そうなんですが、入ってもらえるかと思いまして」
「それは別にいいんだが、不採用の理由は何なんだい?」
「はい、スタジオが狭くて、ギターが二人になると入り切らないっていうことなので。どうもすみません」
「スタジオが、狭い?」
「はい」
「別のスタジオへ、行けば、いいんじゃないのか? いや、別にいいんだけれどね」
「そうなんですが、すみません」
担当はしんみりと頭を下げた。
「そうですか」と、こちらもしんみりした調子で言いながら、もう広告屋を変えることに決めた。
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