生みの親
大学2年の時、学生寮で木下さんが「百君、このギターを2万で買わないか?」と云ってきた。フェンダーのストラトキャスターだった。
ちょうどストラトキャスターに興味があったから、2万ならと買っておいた。
自分はギターのことを高校時代に級友の谷田からあれこれ教わった。
谷田はフェルナンデスのギターを使っていた。フェンダーのギターってどうなんだと訊いたら、あれはフレットが小さい上に指板のアールがきつくて弾きにくいと云った。
世界のフェンダーがそんなに弾きにくいなんて本当だろうかと思っていたが、木下さんが持ってきたギターを弾いてみると、まさに谷田が云った通りで、随分弾きづらい。
音もあんまりしっくり来なかったから、曲を作るのに使っただけで、じきに木寺に3万で売った。
その後、別のフェンダーストラトキャスターを手に入れた。そっちは普通に弾きやすく、音も気に入って、今でも使っている。
数年前にバンドを再開させた。
そう云えばこのバンドの代表曲はあの木下ギターで作ったから、木寺がまだ持っているなら買い戻してステージで使うのも、人生の伏線回収みたいで面白いだろうと思い付いた。
それで「あのストラトはどうしたね?」と訊いてみたら、「あぁ、あれは別れた女が持って行ったよ」と木寺は言った。
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