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インタビュー

 ある時、小学校から帰ると家に誰もいなかった。その日は半ドンだったから、テーブルに置いてあったカップラーメンを作ろうとしたら、突然バタバタバタバタと大きな音がして、家が揺れ始めた。地震とは違う小刻みな揺れ方で、何が起きたかわからない。
 戸惑いながら固まっていると、じきにバタバタ音も揺れも収まった。自分はベランダに出て外を見回したけれど、どこにも別段異常な点はないようだった。
 どうも何があったかわからない。狐につままれたような心持ちでいたら、前の通りから嶋田が見上げているのと目が合った。嶋田は近所に住む小太りの女子である。何だか咎めるような目をしてこちらを見ている。
 変な音がして家が揺れたから驚いて出て来たのに、他人から咎め立てされる謂れはない。何だこいつはと思って、無視してやった。嶋田も何も云わず、どこかへ歩いて行った。

 全体、嶋田はいつもこんな目で人を見るからいけない。
 これより少し前、自分は学校のトイレでうんこをした。男子の場合、学校でうんこをすると変に注目されるから、腹が痛い時には誰にも知られないようこっそりトイレへ入って、速やかに用事を済ませるものである。
 この時もそうして首尾よく片付けたのだけれど、個室を出たら男子トイレの前に随分な人だかりができていた。どうも入るところを誰かに見られて、「百がうんこしとる」とあまねく知れ渡ったものらしい。随分きまりが悪かった。
 みんな一様にこちらを見ている中に、やっぱり嶋田が咎めるような目をして立っている。学校でうんこをしただけで、咎められる筋合はない。やっぱり何だこいつはと思ったら、人だかりの中から須藤が出て来て「今のお気持ちは?」と訊いてきた。

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