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野球はいつも「奇跡」を教えてくれるから
野球を観ない春が当たり前になって、もう1か月近く経った。
平日、夕方になればそわそわ。試合速報はスマホでこまめにチェック。流れる文字に一喜一憂する。去年まではそんなことが日常だった。
野球を好きになったのは、数年前。たまたまベイスターズの野球中継を見るようになってから。
私が野球を好きな理由。それは「理屈ではない力が働く」からだと思う。言うなれば「奇跡」。野球は「奇跡」が本当にあるんだよ、と目の前で見せてくれる。それは野球以外のスポーツ全般に言えることかもしれないけれど、私は野球にそのことを教えてもらった。
ネンイチの勝利の女神
2017年5月6日、横浜DeNAベイスターズ 対東京ヤクルトスワローズ戦。
この日の試合は家族で見に行っていた。
「今日はダメだ」
そう弟が言う。
その日ベイスターズは7回裏まで無得点。対するヤクルト打線は5得点。初回に2点、7回表にはダメ押しの3点を追加された。
弟は野球に詳しい。ここから5点差を逆転する難しさを知っている。野球はよく「確率のスポーツ」と言われる。私はその意味をよく分かっていないけれど、たぶんここから逆転は、確率的に言っても相当低いのだろう。
後ろの席には年配の女性二人組がいて、自然と会話する機会があった。聞けば親子だそうで、お母さんの方はもう高齢で年1回しか観戦できない。その1回を楽しみにしていて、それが今日だった。
「今日はちょっと残念でしたね。」
そう声をかけるとお子さんの方が、
「お母さんが見に来るときは、いつも勝つんだけれど。でも、さすがに今日は無理かしら。」
そうこぼした。私は「勝利の女神じゃないですか!」と言ったはいいものの、それでも今日はさすがにな…と思った。ところが次の回。ベイスターズにチャンスが訪れる。1点を追加し、なおも満塁。ここで満塁ホームランが出たら、一気に同点という場面。
弟は「そんなうまくいくわけない。でも頼む!」と呪文のように繰り返す。後ろの席には年1回、この日のために来た勝利の女神。梶谷選手に打席が回る。梶谷選手は良い意味で「0か100か」の選手だ。どっちが出るか。
次の瞬間。満塁ホームラン。「100」が出た。
私たちは、興奮で入り乱れながらハイタッチした。「信じられない!」そう言って振り返った私に、勝利の女神は「夢じゃないわよ」と頬を優しくつねって笑いかけてくれた。
そのあと試合は延長戦に入り、柴田選手のサヨナラヒットで勝利をおさめた。私は「あわよくばサヨナラの試合が見たいな~」なんて心の片隅で思っていた。そしたら叶った。勝利の女神に出会えた奇跡と、5点差を逆転してサヨナラ勝ちを見せてくれたベイスターズ。本当にありがとうって言いたい。
喜ぶ柴田選手。(かわいい)
初サヨナラに立ち会えた。記念のスコアボート。
偶然の試合が「神」だった
2017年8月24日、横浜DeNAベイスターズ対広島東洋カープ戦。
この日、私は試合を見に行く予定は無かった。
会社帰り、いつものホームを歩いていたら同じ職場の上司(カープファン)が不安げにホームの電光掲示板を見上げていた。放ってもおけないので「どうしたんですか?」と声をかけると、「横浜スタジアムに行きたいんだけど、この電車でいいんだっけ」と聞かれたので「そうですよ!見に行くんですか!」と興奮気味に答えた。そこで思わぬお誘いを受ける。
「本当は息子と見に行く約束だったんだけど、行けなくなっちゃったから、一緒に行く?」
私は普段こういうとき断る方なんだけれど、野球となれば話は別だ。「行きます!」と二つ返事で見に行くことに。
ベイスターズは前日と前々日、すでに奇跡的な勝利をおさめていた。対カープとの3連戦、2戦連続で「サヨナラ勝ち」。この日の試合はその3戦目だった。
この調子で3タテしたいベイスターズファンとされたくないカープファン。どんな因果か知らないけれど、偶然の出会いから隣の席で仲良く観戦することになった。
5回までカープ打線に押され、1-4と3点負け越しのベイスターズ。隣の上司は「まだわからない」と言いながらも、余裕が感じられる。その上司、実は社内で野球部の監督をやっている。当然野球には詳しい。さすがに同じ相手と戦って、3試合連続で負けるなんてことそうそう無いと踏んでいるのだろう。(この年のカープは実際優勝するほど強かったし。)
ところが。じりじりとベイスターズ打線が1点1点と詰め寄る。その間、カープ打線はベイスターズの中継ぎ投手陣を前に抑え込まれる。さすがの上司も「やばいな・・・」と顔色が変わる。前日、前々日と連続で「サヨナラ負け」を喫したあの悪夢が頭をよぎったのだろう。
逆もしかり。ベイスターズファンからしたら、ありありと想像できた。今日も勝てる。スタジアム全体が「もしかしたら」という雰囲気に包まれた。
8回。ついに同点に追いつき、最終回。ここで1点が入れば、サヨナラ勝ち。倉本選手が打席にたつ。2アウト2塁。ここで1本出れば。
私はこの瞬間のことを、今でも昨日のことのように思い出せる。
打球は2塁の方へコロコロと転がり、ごくごく普通の「ゴロ」だった。カープの守備の名手、菊池選手がいつものように軽やかな身のこなしでボールを取りに行く。「ああ、だめだったか」そう思った瞬間。菊池選手を通り抜けていく白い打球が見える。次の瞬間、2塁走者が生還し、点が入った。
意味が分からなかった。ただのゴロなのに、点が入った。
「信じられない!」(すぐ言う)そう叫ぶ私の横でカープファンの上司は「まじか」とぐったりしていた。そんな上司に構わず、私は飛び上がって喜んだ。
前のサラリーマンの喜びようが、この試合を物語っている。
サヨナラヒットを打った倉本選手。あまりにも神がかり的なヒットだった。
カープファンの上司は「ヒーローインタビューなんて見たくないよ・・・」と意気消沈していたけれど、私のわがままに付き合ってもらい、最後まで見届けてもらった。優しい。
この「3試合連続サヨナラ勝ち」は、球団史上57年ぶり。同一カードではプロ野球史上初のいう快挙だった。
ニュースを見たら、解説者の方がこんなことを言っていた。
「この試合、カープファンも、ベイスターズファンも、みんなが『もしかしたら』と想像した。その気持ちが、形になってあらわれた試合だった。」
確かにあのヒットはキレイなヒットではなかった。イレギュラーなバウンドをしたんだろうけれど、不思議な動きだった。まるで、みんなの気持ちが乗り移ったような。
そんな理屈を超えたことが、野球では起きる。だから野球って面白い。偶然の出会いからの、ラッキーなお誘いからの、神がかった試合。この日のことは今でも、私の大切な大切な一日として、心に刻まれている。
***
懐かしい。野球を観れなくなった今。私は、改めて野球が与えてくれた喜びについて噛みしめることになった。
スタジアムに行って、野球に生で触れた瞬間。それは無条件に「生きていてよかった」と思う瞬間だった。
奇跡なんて大げさかもしれない。でも見に行った試合が「勝ち試合」なら、それだけでもう「奇跡」なのだ。この瞬間、選手たちと同じ時を共有して、「勝ち」の瞬間に立ち会えるそのことこそが「奇跡」。だから、そんなときに今ここにいる自分は、無条件にすごいし、無条件に幸せだし、無条件に愛すべき存在なんだ。野球が見せてくれる奇跡で、私は自分で自分自身を好きでいられる。
今、野球を含め、スポーツを楽しんでいたかつての世界そのものが「奇跡」のように感じる。スポーツが出来る奇跡も、スポーツが見せてくれる奇跡も。またそんな奇跡を見にスタジアムに行ける日まで。私は、応援し続けたい。
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