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カッパ

 免許を取ってからじきに、原付を買うことにした。
 その当時はまだ大学生で金がない。だから中古でいい。あんまりいい加減な物では困るけれど、安い中古バイク屋を知らないかと佐村に訊いたら、安いかどうかは知らないが、吹田駅から少し行った店で中古品を扱っていると教えてくれた。

 それより少し前に、辻の原付を借りて乗った。辻の下宿に集まってライブの準備――カッパの皿と嘴を作るなど――をしていた時、所用で自分だけ近くのイオンへ行かなくてはならなかったのである。
 辻の原付は黒のディオだった。
「右がアクセルだ。ゆっくり回さなけりゃぁひっくり返るぜ。危ないのだから気を付けたまえよ」
「うん、ゆっくりだな」
 云われた通り、アクセルをゆっくり捻って走り出した。上手く発進できた。
 何だ、簡単なものだと安心していたら、信号待ちから走り出す時に油断して、歩道へ乗り上げそうになった。ちょうど通りかかった子連れの女性に随分睨まれて、「すみません」と言って逃げた。今度は上手く出られた。
 イオンで用事を済ませた後、たこ焼きを買って辻の所へ戻った。

 佐村に教わったバイク屋で、白いディオを買った。その時分、周りは大体ホンダのディオかヤマハのジョグに乗っていた。自分は昔からヤマハのブランドイメージがあんまり馴染まないから、ディオを選んだ。色は黒が良かったけれど、状態と値段の兼ね合いで白にした。
 早速学校へ乗って行き、佐村に「どうだね、白馬の王子様みたいだろう?」と言ってやった。
 佐村は「本当だ。白馬の王子様だねぇ」と感心した。心のうちで、そこは「何が白馬の王子様だ」と一笑に付すところだろう、と思った。

 このディオはそれから随分活躍した。
 そのうちに前輪のブレーキが壊れて剣呑なことになったけれど、コツを掴んでそのまま乗っていた。ある時パンクしたから修理に出したら、ついでに直してくれた。

 就職して、横浜へ異動になった時も持って行った。大阪のナンバーのまま乗っていたら、スラム街みたいな公団の駐輪場で盗まれた。

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百裕(ひゃく・ひろし)
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