「教養としてのロンドン・ナショナルギャラリー」木村泰司
本書を読んで1番印象に残ったのはロンドン・ナショナルギャラリーの成り立ちそのものについて、その存在意義について。
美術館は王家や国が所有している美術品を解放しているものが多いが、本ギャラリーについては、英国市民がヨーロッパの美術史を学べるよう、有志から寄贈された美術品群が、歴史の流れに沿って網羅的に並べられており、
美術館自体がある意味無料の教育機関としてそこに在る。
敢えて英国ではなくヨーロッパを含んだ美術品群というところがミソ。英国は他国に比べ美術史歴史は浅く、主にイタリア、フランス、オランダからの美術品が圧倒的な存在感を占めている。
この美術館の成り立ちや存在意義が物語るのは、ひとえに美術史や美術品に触れることの、大切さだと思う。それも特定の階級の人達へだけではなく、市井の人々へも。
本書を手にしたとき、現在日本にきている展示物の解説を期待したのだが、内容は本家のギャラリーにある美術品を時代背景や流れ、グループごとに紹介しているものだった。
日本人や外国人にわかりやすいよう、「ロンドン」とついているが、本来現地での正式名称は「ナショナル・ギャラリー」とのこと。
なるほど、国家による、国家に属する人々のための、美術画廊というわけだ。
こんなに沢山の絵画コレクションを有する美術館が無料で解放されているというのが、大英博物館しかり、英国の美術に関する懐の深さを感じる。
学生や子供達に混じって本ギャラリーの地べたに座って絵画の講義に混じってみたいと思った。
ロンドンで。