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今夜もご自愛ください。

 「愛されずに育ったからそんな性格になっちゃったんだね。可哀想に」は、どうにも否定しきれないような悪口。たしか言われたときは中学生だった気がする。いやに殺傷能力が高い。あとは気を許した友達にだけ教えたはずの黒歴史量産アカウントに、ご丁寧に「ばり」なんて汚ったない方言を引っ提げて綴られた短い悪口。そっちは誰だか分かんないけど、同じような時期。正直、傷つけられた体験ばかりが鮮明で、「自分」をあんまり覚えていない。けど、まあ。そう言わしめるだけの性悪さがあったんだと思う。いまよりも

    • 鬱喰らい、文学へ

       健康で文化的な最低限度の生活ができてしまうということ。朝、起きた瞬間に死にたいと泣くことがなくなる。昼、勝手に腹が空いてもりもりと弁当を食らう。夜、広がっていく思考や宇宙に、殺されず一日を終える。――そう、つまりは幸せなのだ。あまりにも満ちている人生。ひたすらに精神が荒み、朝に脅えていたあの日々の痛みをも忘れ去ってしまいそうなほどに明るい未来。生きようと思ったからこそ辿り着いたこの世界。誰しもが羨み、素晴らしいはずのこの生活。しかしそこに文学はあるのだろうか。  たとえば文

      • 雷にも似た貴方のきらめき

        田中樹というひと。  わたしが、もし将来的に日本国語大辞典の編集者になる未来があるとするならば、確実にこの一節を残すだろう。不思議と、迷いはない。ひとつ断っておくと、わたしは言葉が好きだ。すべての言葉を、「正しく」使いたい。だからこそ、田中樹は青天の霹靂であると、言いたい。決して気が狂ったわけではない。  かみなりみたいに一瞬で、脳天まで貫かれた。一目見て、こんなにもかっこいい人がいるものだろうかと心が震えた。未だに、その感動はわたしの心臓にこびりついている。 2021.0