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フジテレビの社長会見の部屋は結構広かったよ

フジテレビの緊急社長会見が話題である。

タレントで元SMAPの中居正広の一連の騒動にフジテレビの社員が関与していたのではという週刊誌の報道を受けて、定例の社長会見を前倒しして開かれた。
開催方法もオープンなモノではなく、「会見室が狭いから」という理由で、記者会に加盟した会社のみが参加するスタイルとなった。まあコトがコトだけにネットメディアなどからは強い批判の声が上がったが、強行突破した格好である。
さらにこの時代にあって配信不可という意味不明な規制までかけられ、テキストベースの情報だけが流れ出ている状態だ。兎にも角にも、時代錯誤も甚だしい会見として歴史に名を刻んだわけである。

実は、私は記者としてテレビ局の会見に行ったことが何度かある。
テレビ局はだいたい毎月、定例で社長含めた役員が出てくる会見を開いている。大体は力を入れている番組の視聴率がこんなもんだったとか、CMをはじめとする本業収益がこんなもんだったとか、今月はこんな番組やるぞみたいな話をしてくれる。

余談だが、私が小さな頃、ヒット番組であれば視聴率20%というのは当たり前だった記憶があるのだが、今では1桁台というのも結構ザラで、2桁に乗ったらかなり凄い方らしい。新聞業界など説明不要の爆死ぶりだが、テレビ業界も楽ではなくなってきているんだなとしみじみ感じたモノである。

閑話休題。そんなテレビ局の定例会見で、私はフジテレビの会見にも足を運んだことがある。
実は、フジテレビの定例社長会見で使う部屋は結構広い。
役員までの距離も結構ストロークが長かった記憶があるし、部屋は結構立派だった。確かに木のでかい机とかがやけに多いので人が入りづらいというところもあったのかもしれないが、それでも感覚的には、TBSの方が狭かった(TBS関係者にはここで心よりお詫びしたい)。

それゆえ、フジテレビ側の「会見場が狭いから記者会のみ」という説明を間に受けるのは難しい。
もしかしたら表に出すことのできない全然別の理由があるのかもしれないが、仮にそうだとしても方便が稚拙だったのは否めないだろう。


普段、報道の自由があるなどと言って悪いことをした人にはとことん迷惑な取材をするのが(私も含めた)報道の人間であるが、途端に自社の話となると口をつぐみ、極めて閉鎖的な対応をする。これが自己矛盾でなくして何なのだろう。業界の人間として、非常に恥ずかしいことだ。

まあ、とらえようによっては、むしろメディア業界なのかどうかを問わず、そもそも企業組織には悪いことを隠す力学が働きやすいということを示している、とも言える。それがメディア業界かどうかを問わない本質だからこそ、少しでも(メディア業界はまあさておき)悪事を隠さぬようにするためにメディアが存在するんだ、などという虚ろな主張を作り上げることもできる。

ただ、権力を批判するメディアもまた権力に他ならず、そして総じて権力は腐敗する。フジの対応は、マスメディアが掲げる虚ろな主張を普段は盾にしながら、如何に権力としてのマスメディアがいま腐敗してしまっているのかを如実に示してくれたのかもしれない。

そんな腐敗したメディアが変わるためには、優秀な人材ではなく、外圧が必要だ。
中の人が奮闘したところで、結局は上に潰されていく。普通の企業組織と同じ力学でマスメディアもまた動いている。
だからこそ、お金がなくなって経営が立ち行かなくなるとか、人気がなくなってメディアとしての存在価値を失うとか、読者・視聴者が「これはおかしい」と声をあげることがメディアの変革には必要だ。

ここまで話を進めると、メディア業界にいない人のなかには「なぜ既存のメディアをわざわざいい方向に変えていく手助けをしないといけないのか。経営が下手で会社が傾くなら、勝手に潰れればよい」と思う人もいるだろう。それは全くもってその通りだ。
現在、メディアに対してのたくさんの批判がSNSなどに渦巻いている。要は「マスメディアにはまだそれなりに影響力があるから相手にされている」だけなのである。

「なぜ既存のメディアをわざわざいい方向に変えていく手助けをしないといけないのか」と考えて人々がマスメディアに関心を失い何も言われなくなり、それに伴ってマスメディアの社会的影響力が失われていくことは、おそらく関係者のほとんどが望んでいないことだろう。「相手にされている」からこそ、マスメディアは外圧を受けながら漸進的にでも変わることに意味があるのはいまなのだ。

散々権力を批判してきたマスメディアなら、組織や国家のあり方の望ましい変化についても幾度となく報道してきた。ならば、自社を変える方法などいくらでも思いつきそうなものであるけれど、不思議なことに報道の現場は砂漠のような沈黙に包まれている。
これもまた、マスメディアの持つ自己矛盾のひとつである。

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