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十一月の読書小記録

ひとつきに読んだ本のなかから3冊を選んで、力を抜いてみじかい感想を残していきます。
積極的なネタバレはしませんが、未読の方はご自身の判断でどうぞ。



🚴十一月の三冊


赤と青のガウン - オックスフォード留学記/彬子女王

留学当初、いちばん辛いと感じたのは、いつも一緒だった側衛がいなくなったことだった。日本から送ってくれた側衛が帰り、オックスフォードの寮で一人になったときのさびしさは言葉にしがたいものであった。それまでは、道がわから なかったら聞けばよかった。一人で映画を観にいっても、美術館に行っても、感想を共有できる人がいた。一般の方には考えられないことだと思うけれど、生まれて初めて一人で街を歩いたのは日本ではなくオックスフォードだった。

女性皇族であるによる彬子女王によるオックスフォード留学記。

「生まれて初めて一人で街を歩いたのは日本ではなくオックスフォードだった」という一文にも象徴されるように、それまで側衛に見守られながら生活してきた彬子女王が、イギリスを舞台に自らの手足によって生活を切りひらいていく様子には胸が熱くなった。格安航空券を買って辺鄙な空港に飛ばされてしまったり、電車で寝過ごしてあわや車庫へ行きかけたり、その冒険譚には思わず親しみを感じてしまう。そのなかに突然女王陛下とのアフタヌーンティーのような別世界のエピソードがあらわれる温度差も面白かった。
また、私自身も留学経験があり、かつ現在大学院生であるという点で重なる部分があったので、おこがましくも先輩の教えを聞かせていただくような気持ちで読み進めていた。最初の歓迎会で馴染めない気持ち、指導教授ジェシカとの闘い、「博士論文性胃炎」──わかるなあと思うこともあれば、これから通るであろう道を恐ろしく感じることもあった。エッセイではあるが、留学や研究を志す人たちや新生活をはじめる人への教本としても価値がある一冊だと思う。

一方で私は身の回りの先輩方が経済面や人生設計に苦心している様子も見ていて、研究能力や気構えだけでは越えられない壁がある、という思いを消すことができなかったのも事実だ。もちろんオックスフォードで博士号を取得するというのは並大抵の努力では達成できないことで、さらに彬子女王の場合は女王殿下としての品位を守りながら、しかし特別扱いはされずに異国での生活に適応していく必要があったことも考えると、「どちらのほうが大変」なんて次元の話はできないし、したいとも思わない。ただ、真摯に学問に向き合う人たちが等しく能力を発揮できるような環境ができることを願ってやまない。

弟の夫/田亀源五郎

「俺だって……ほんのちょっと前までは男同士の結婚なんて変だと思っていた。ユキちゃんと俺『大人』なのはどっちだろう」

第22話「ショーカイ」(第4巻収録)

父娘二人暮らしの家に、亡き双子の弟がカナダで結婚した「弟の夫」であるマイクがやってくる。ゆるやかに変わりゆく三人の日々を描いた全四巻の漫画。

もしかしたら最初のうちは主人公・弥一の無理解に苛立ったり傷ついたりするひともいるかもしれない。しかし弥一はモノローグのなかでこそ素直な感情を吐露しながらも、現実ではそれが差別的だとわかっているからできるだけ隠そうとするし、葛藤する。こういう人は現実にたくさんいるのではないか。少なくとも彼は単なる差別主義者ではない。そして弥一はその理想と現実の感情とのギャップをマイクと過ごす日々のなかで埋めていく。「そういう時代だから……」「ポリコレが厳しいから……」などという上辺の理解ではなく(それでも無いよりはましだけど)、自分の実感として体得することを、あなたは/私はどれだけできているだろう。その点では子どものほうが上手だなあと作中のエピソード(引用回)からも実生活での体験からも思うのだけれど、もう大人である私たちは私たちなりの変わり方を見つけていくしかない。この作品はその手がかりを示してくれる気がする。


食べたいほど愛おしいイタリア/アレッサンドロ・ジェレヴィーニ

もし皆さんがイタリアを訪れたなら、店の前に並んでいるテーブルに座り、大きなパフェを注文してもいいけれど、コーンを買って、そこいらへんの遺跡、教会、泉の前にある石畳の階段の上に座って、町並みを楽しみながらジェラートを舐めるというのもいいのかもしれない。視覚と味覚の悦楽を同時に体験するというのは、この上ない喜びなのだから。

よしもとばななさんや松浦理英子さんの翻訳で知られるアレッサンドロさんによる、イタリアの食やライフスタイルについてのエッセイ。

出てくる食べものが全部美味しそうで困った。ああ、今すぐ「本物のピッツァ」が食べたい。私はアレッサンドロさんが言うところの「変な具が過剰にのった」「僕からすれば見たことのないインチキな」日本式ピザも大好物なのだが、窯で焼いたあつあつの薄いピッツァを頬張りたい!イタリアの夜の街を歩きながらジェラートを食べたい!
あとエッセイのなかでイタリアのひとが「たまり醤油」のことをショウユ・タマーリと言う場面があって、それがかなりツボに入ってしまった。イタリアに行けないうちは日本でショウユ・タマーリを食べて我慢しようと思う。

また食べもの以外で興味深かったのは、イタリアの人々の考え方について。たとえばイタリアの多くの大学は、「教育に対する自由」という原理に基づいて入学試験も入学者数制限も行われていないのだとか。それゆえ学生があふれ、映画館や劇場で授業が行われたり、床に座って授業を受けたりすることもしょっちゅうらしい(発刊当時の情報かも)。おもしろ~。

「イタリア人は”口”が命!」という言葉も心に残った。マンジャーレ(食べる)・カンターレ(歌う)・アモーレ(愛)。イタリアの人々が大切にしているこの三つの行為を上達させるには、口を鍛えることが肝要なのだという。イタリア人が挨拶として行うキスもそこに繋がっている、とアレッサンドロさんは言う。元気に生きるために、私も口を鍛えるぞ。

十一月は久しぶりに会えた友人が多くてうれしかった。
私は自分から人を誘うのが苦手で、誘った方がいいことは重々わかっているけれど苦手なものは苦手で、だから友だちからのお誘いは本当にうれしいものだ。不思議なことにそういうお誘いは決まって同じタイミングに重なるから突然芸能人のようなスケジュールで動く週が発生するのだけれど、たまにならうれしい悲鳴を元気にあげるだけ!きゃー!

受け身であるゆえのいいことも少しはあって、その一つがあまり興味が無かった世界にも連れていってもらえること。それで自分の興味が広がったらうれしいし、結果あまり響くものがなくても、好きな人が楽しそうにしていたらそれだけで元が取れる。これからも色々な人と一緒にいろいろなところに行きたいな、と思う。

十一月 ボーリングがあれば体育を嫌いにならなかったかも 

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汐見りら
お読みいただきありがとうございました🌙

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