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【短編】君を好きになった
太陽の光がまつげを掠めた。こんな暑い日に、どうして私は知らない街を歩いているのだろう。べたべたとした身体がせっかく新調したセットアップに汗ジミをつけ、サンダルがきゅっきゅっとうるさい。
人生の何もかもが嫌になった。
だからせめて最後くらい、大好きだった君に会いたかったのだと思う。
結局、私は君に会えなかった。正確には会えたけれど、君の視線はまるで私を捉えていなくて、近いけど遠い、有象無象の存在で。
アリーナの最前列だった。前だからといって必ずしも幸せなわけではないのだと、最後にいいことを知れた気がする。
好きなときは2階席ばっかりでさ、気持ちが無くなれば君を近くに感じられるなんて、バカみたいだよね。お金も時間も無駄に思えてしまってね、顔を見てもどこが好きだったのかよくわからなくて、もう本当に嫌になったの。
報われないのがものすごく嫌になったんだよ、
一度捨ててしまわなければいよいよまずいなと、本気で危機感を覚えたのは確かだ。君に依存することで生活を維持していた私だったから、このままでは本当に何もかもままならなくなってしまう。
お金がなくなるとかそういうことよりも、心がじわじわと削られていく感覚には耐えられない。
だけど君が最後まで、私のことをその他大勢と同じ扱いにしてくれてよかった。あんなに近くにいても、君がドライなままでよかった。
そういう、プロ意識の高いところが好きだった。長いまつげも、ほくろがある首筋も、凛とした瞳も、すらりとした足も、指先もぜんぶ、好きだった。
ありがとうもさようならも要らない関係でよかったね。ちゃんと他人でさ。
報われなくて、でも、わかっていたけど私は、そんな君を、好きになったよ。
また会いたいなあ。
おわり
※この物語はフィクションです。
あとがき
状況、伝わりましたでしょうか?わかりにくくてすみません。
関係性は、アイドルとそのファンという感じですかね。
そこは読み手の想像次第ですが、とにかく主人公は、これ以上好きになるのはヤバいと思って自分から吹っ切るわけです。恋愛ってのめり込むとめちゃくちゃ乱されるものというイメージがあるので、主人公は、生活すらできなくなる前に手放すことを決めました。
どんな形であっても恋愛って"報われたい"とか"辛い"とかの気持ちが付き物だと私は思っていて、そういった苦しい部分こそ恋愛の醍醐味なんじゃないの?とも考えますが、きっと誰しもいつかは愛されたいものですよね。たぶん。(知らんけど)
何にせよ、別にこれは恋愛においてじゃなくても、報われなくて嫌になることってめちゃくちゃきついと思います。
そんな"きつい想い"を書きたくて、今回はこういうお話になりました。
◇
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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