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jinen. 2024.10


はじめに

東京渋谷にあるフレンチレストラン、「jinen.」に伺いました。
先日伺った「豊後もん江とう」と同じく、石かわグループによるレストランの1つです。

実際に食べたもの

ランチコース(税サ込13,310円)を頂きました。
追加料金で、全て2人前にしていただいております。

コースが始まる前に、この日使用する食材をお見せいただきます。
この際、メインの選択と松茸のオプション(季節柄かな?)をお聞きくださりました。本日のメインは下記の2種類でした。

  • 北海道エゾ鹿(通年でのご提供)

  • 熊本県産あかうしサーロイン(別途料金発生)

この日はエゾ鹿を選択しました。

北海道産雉と茸のスープ

木製のワイングラスのような形の器で供されます。
ということで、ワインテイスティングのように、まずはフォルムから(笑)

グラスの底がはっきりと見えるほどに透き通った色味。さらりさらりと水のように粘性が低く、少し傾けても縁に余韻の涙はほとんど付きません。

香りとしては、茸のフレッシュな旨味がぎゅっと詰まった香りがふわあぁと開いています。
そして口へ含むと、香りに反して雉由来のピュアな甘みやエキスが全面に出た味わい。柔らかな円を描くような丸みに、最後に茸がそっと添えるかのように余韻を持たせます。

鮮度の良さと純度の高さを感じる味わいです。

栗と雲丹のタルト

栗のタルトの上に、フレッシュな柿、北海道産馬糞ウニをたっぷり乗せた後に、栗を削ったもの。

結論、栗と雲丹の相性がこんなに良いとは…!?と驚かされました。
簡単に崩れてしまいそうなほど薄いタルトは、クリスピーな食感と栗らしいホックリとした柔らかい甘み。そこへ、柿の果肉と熟した甘みがポイントで入ります。そして、雲丹は栗の風味を壊さない優しい磯の香りと、濃厚なコクと甘みがまろやかに包み込む。

味わいの構成要素として「甘み」が強い食材の組み合わせですが、立体感と波がある。不思議と単調に感じなかったです。

無花果のフリット

無花果のフリット、白神山地産の生ハムに、セルフィーユをあしらった一品です。

無花果はフリットされたことにより、弾けるような瑞々しさに、とろ~んとした口当たりと甘みが加わります。そんな甘みが味わいに膨らみを持たせつつ、柔らかくもフレッシュな酸が輪郭を生む。
生ハムによる上品な塩気とコクが丸みある深みを加え、最後にセルフィーユによる華やかで爽やかな余韻がスッと締めます。
この食材の特性の活かし方や組み合わせに、ぐっっときました。

少し話は逸れますが、jinen.では木製の器やカトラリーを多く扱っていらっしゃるのが特徴的。
こちらは、アイユで神様として祀られるフクロウを手彫りした器です。
木製の食器はすぐに洗って乾かさなければならず、扱いが大変。
でも、そんな拘り一つ一つによって、温かく心地良い空間が創出されているのだと感服いたしました。

しめ鯖と林檎のミルフィーユ仕立て

林檎はシャキシャキと瑞々しい食感と、静やかな甘み。鯖は柔らかく締められていて、淡い酸と鯖本来が持つ脂の甘み両方が楽しめます。
合わせるのは、リコッタチーズのソース。まっすぐな塩と軽やかな酸が、ふわりとした口当たりのコクと甘みによって包まれています。

それぞれが持つ、甘みと酸の違いが楽しめました。

カリフラワーのムニエル

スペシャリテの登場。
固体の大きさ、芯の太さ、繊維の具合に応じて、何と生の状態から20〜30分ほどムニエルしています。
30分加熱されたとは思えないバターの色味(普通だったら、もっと濁っている)に、丁寧な仕事っぷりを拝察できます。 

カリフラワーのムニエル

そりゃあスペシャリテだよね、と思うほどに滋味深い…。

まずカリフラワーは、食感からして特別。
ほっくり、しっとり、ほろり。そんな食感が瞬く間に移ろっていく、この感覚。何口でも頂きたくなります。
そして、バターによる香りとコクがすっと、カリフラワー由来の柔らかな甘みに馴染み込み、共に広がっていくような味わい。30分もムニエルしているとは思えないほどに、混じりっ気がなくて、行き過ぎていないのです。
(何でこんなにも、脂っぽさやしつこさを感じないのかが、不思議でならない…)

ソースはブールブランベース。マッシュルームとエシャロットのソテーに、マデラ酒と鶏のブイヨンを加えて煮詰め、仕上げにクリームを加えています。
クリームのコクや丸みはあるのですが、必要最小限に抑えているためか、野菜や鶏のブイヨンによる旨味を鮮明に感じられます。
そこへ、イクラによる海のミネラルが詰まった旨味と、ほんのりとした塩気のアクセント。
そして、オレンジの果汁が加わることで、果実味ある甘みと酸が食中に瑞々しさを加え、最後をすっと引き締める。

リゾット

爛々として食没していたら、シェフが笑顔でリゾットを投入してくださりました。

人参、セロリ、にんにく、玉ねぎ、白胡椒とトマトをベースにした出汁で炊かれたリゾットです。
存分に詰まった豊かな旨味のヴェールと、芯には確かに感じるお米のピュアな甘み。
リゾットって、もっとのべーとしているイメージなのですが、この重みと後味が非常に心地良い。

野菜の可能性って本当に、限界がない。そう感じる一品。
ただでさえヒートアップしていた感情が、完全に行き所を逃してしまいました。

口直し

シャインマスカットとベビーキウイ。
ベビーキウイは少し口をすぼめたくなる酸と渋みに、口がリセットされます。

北海道白糠産エゾ鹿

しなやかな弾力と柔らかさがある食感。
そして、咀嚼の度に、じわじわとゆっくりエキスが流れてくる、この感覚が染み染みと心地良い。
そして、活き活きとした、でもその中にふくよかさもある旨味のエキス。気持ち良い空気の中走り回りながら、草に加えて木の実も食べ始めているのかな…何とも秋らしい味わいです。
ソースは赤ワインベース。恐らく鹿や野菜の出汁で伸ばしているようで、赤ワインらしいコクと最後の酸を感じつつ、晴れやかで柔らかな旨味と広がりです。

付け合わせには、醤油の香りをつけて炭火焼きしたえのきと卵黄ソース。すき焼きをイメージして作られたとか。
えのきに関しては、コース2品目当たりから焼き始めていたのですが、乾いたような、ボサボサした食感が全くない。旨味のエキスがいい塩梅に凝縮・保たれています。そして、醤油とほんのりと焦げた香ばしさと甘みがそっと添える。
ソースは卵黄らしいコクはあるのですが、非常に滑らかで柔らかい。えのきや醤油の繊細な旨味や香りを消さずに包み込んでいます。

炭火焼きトースト

メインに合わせて、パンも供されます。
サクッサクッとした外側と、中はエアリーな口当たりでありつつ、高加水パンのようにしっとり。ふあぁと繊維が溶けていく感覚です。
これは、パン屋泣かせです。



メインの後、お腹に余裕があればと締めのご飯のご提案。
この日はハヤシライスとスープカレーがあり、両方選択することも可能です。また、量も調整できます。
ということで、お言葉に甘えて…両方を大盛りでお願いしました!(笑)

ハヤシライス

お野菜をどれだけ使っていることでしょうか、まさにお野菜の旨味の集大成。
ハヤシライスといえばのトマト、しっかりとグルタミン酸による旨味は感じますが、酸が非常に抑えられていて、丸みのある味わい。
まろやかですが、重みは全くなくて後味がふわぁと柔らかく引いていくような感覚。

ちなみに、ご飯はカリフラワーのムニエルで頂いたリゾットです。感動の再会。(笑)

羊の出汁のスープカレー


羊の脂の甘さたるや。こんなに甘いの、そしてこんなにピュアなの!?と驚かされました。
ローストした香り、華やかな香り、爽やかな香り…様々なスパイスの風味に、この出汁によって一体感とまろやかさが生まれています。

雑味やしつこさは全くなくて、でもこの豊かで深い味わいが心地良くお腹を満たしていきます。

ご厚意でハヤシライスをおかわり。
牛肉(恐らくあかうし)のステーキのおまけ付きです!

ほおづきのミルフィーユ


写真のように、仕上げにクリームを掛けていただきます。

ミルフィーユ生地は、見た目の厚みとは反して軽やかで、小麦とバターの香ばしい香りと甘み。まるで紅葉のベットへ身を運んでいるかのようです。
ほおづきはパッと弾けるような果肉感と、新鮮さの中に少し熟したような柔らかさもある甘酸っぱさ。
そして、キャラメルのクリームはふわっと細やかな口当たりと淡い球体を描くような深み。そして、ほんのりと苦みが忍ばれた甘い香りが鼻をくすぐる。
まるで羽毛布団のように、ほおづきやミルフィーユを覆うかのよう。

母なる大木が秋となり、鮮やかな紅葉を付け、愛らしい果実を実させた。そんな情景がぱっと頭に浮かびました。
心満たされるデザートでした。

ハーブティー

食後のお飲み物に、ハーブティーを選択。
フランス産の百花蜜と合わせて頂きます。

小菓子

メレンゲの大山(笑)
好きなだけ頂けますし、お土産にも包んでいただくことも可能。

大きいですが、見た目以上に軽いです。
少しミネラルも感じる甘み。
各所にねっちりとした部分やスライスされたローストアーモンドも散りばめられており、食感のアクセントも楽しめます。

素材のピュアな味わい。それを、フレンチや日本料理など多様域のご経験から得られた、自由なアプローチで引き出したお料理。生クリームやバターを使用したお料理も複数ありましたが、全く食べ疲れは全くしない。一方で、薄っぺらいとか、単調とかそう感じる要素は全くなくて。寧ろ、満たされる味わいや移ろいの楽しみがありました。

サービス

豊後もん江とうさん同様、きめ細やか過ぎるホスピタリティ。

予約時は、増量や予約方法の変更など沢山のイレギュラー対応へ、臨機応変に快くご対応いただきました。その際も、電話越しでも伝わるほど、親身になって相談に乗ってくださったことが印象的でした。

そして、当日はテンポや他のゲストとの対応もある中、折を見て構ってくださりました。(本来はもっと常連さんであった他卓を優先されたかったはず)
お話に付き合ってくださったり、お店のコンセプトやお料理の詳細に関する質問にご対応いただいたり。
お写真で分かる通り、お食事の量もお心遣いいただきました。迷惑な客であるはずなのに、「綺麗に食べてくれて嬉しいです!」「次お腹いっぱいにさせます!」と、嬉しくなるようなお言葉もいただき、感服です!(その時の私は、きっとパァァァという効果音付きの笑顔であっただろう)

明るくて気さくなお人柄、でも心配りの行き届かれたおもてなしです。
これは、ファンになってしまう。

お値段

ランチコース(税サ込13,300円)の増量×2、ノンアルコールティ×2、赤ワイン×1で58,000円/2名でした。

まとめ

料理、サービス、空間全てにおいて、洗練されていながら温かみがある。始めて伺ったとは思えないほど、まるでリトリートのような心地良いひとときでした。
絶対に再訪いたします。


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