Post #MeToo Eraで進むセクハラ防止研修の義務化

最近、日本でも耳にする機会が増えたセクシャルハラスメント(以後: セクハラ)。アメリカでは#MeToo movementの発生に伴い Pre/Post #MeToo eraという表現が生まれましたが、その#MeToo movement発生前後で世情が変わったため、今回は流れの変化や気を付けるべきポイントに関してまとめています。

#MeToo movementとは何だったのか
ここ数年、頻繁に見聞きする#MeTooというフレーズは、2017年にニューヨークタイムズが告発した映画プロデューサーのセクハラ事件を発端に大きな広がりをみせたと言われています。(厳密には、以前からも#MeTooというフレーズは存在した)

その事件が新聞で取り上げられた後に、多くの俳優がソーシャルメディアを通じて「私も同様の被害に遭いました」という事で「#MeToo」というキーワードを付けて問題が起こっている状況を発信した結果世間の注目を集める事になったのですが、その現象の一連が#MeToo movementと呼ばれています。また、最近ではセクハラ被害の撲滅を訴える#TimesUpというフレーズも広く浸透しています。

この現象の中で発生していた問題は、「セクハラが発生しているにもかかわらず助けを求められない、あるいは要求を飲まざるを得ない環境である」事、「助けを求めるべくセクハラを明るみに出した結果、解雇されてしまった」事や、そのために「泣き寝入りをせざるを得ない状況だった」などという部分にあり、特に両者間にパワーバランスがあるためにセクハラが発生しやすいと言われています。

これらの問題解決の一環として、セクハラ関連の法律を制定・更新する州や地方エリアが出始めた事もあり、セクハラに対する世間の注目度が#MeToo movementの発生前とは明らかに変わった事から、Post #MeToo Eraつまり、「#MeTooが発生した後の時代」という表現が使われる様にもなりました。(それに対して#MeToo movementが起きる前をPre #MeToo Eraと呼ぶ事もあります)


州や地方エリアの取り組み
アメリカでは、国全体の動きに先駆けて州や地方エリアが新たな取り組みを開始する事が多く、セクハラに関しては#MeToo movementの震源地・ハリウッドがあるカリフォルニア州やニューヨーク州などで法律が更新され、「セクハラ」という違法な性差別やその加害者/被害者の定義の見直し、セクハラ発生時に関する守秘義務(Non-disclosure Agreement) や調停(Arbitration)などの取り決めに対する制限や、セクハラ防止研修の実施義務などが定められました。

また、セクハラはパワーバランスの差によって発生しやすいため、Workplace Sexual Harassment Preventionという概念で、「職場の」セクハラを防止するための取り組みが主流となっています。

最新の例としては、イリノイ州で2020年1月1日から有効となったWork Place Transparency Actがあり、この法律にもセクハラ防止研修の実施義務が含まれているため、州内の全ての企業/組織に対応が求められました。このセクハラ防止研修の実施義務は近年のトレンドであり、カリフォルニア州やニューヨーク州/ニューヨーク市を含め、2020年1月現在では6州と1地方エリアで採用されており、今後更に広まると予想されています。

さらに、セクハラ防止研修は地域によって求められる内容や長さが異なるため、拠点の所在地に合わせた対応が必要となります。例えば、カリフォルニア州では部下を持つ人は2時間、一般職員は1時間の研修を行わなくてはならず、ニューヨーク州では対人または対人に相当する形で実施しなくてはならない事などが挙げられます。

そのため、日本からアメリカに渡って働く人が「日本でセクハラ防止研修を受けて来た」という状況であったとしても、勤務先の地域で求められている内容に合致していない事が考えられるだけでなく、そもそもセクハラの概念が日本とアメリカで異なる部分があるので注意が必要となります。


アメリカにおけるセクハラの概念
アメリカでは、セクハラは「性やジェンダーなどに関する不当な差別」であり違法行為です。また、セクハラは環境型(Hostile Environment)と代償型(Quid Pro Quo)に分類され、前者は「明示的あるいは暗示的に不快な感情を与えてしまうもの」、後者は「雇用関連の意思決定に性的な要因が含まれる事」とされています。

職場における環境型のセクハラの例としては、ジョークあるいは相手のデリケートな部分に言及するなど性的に不適切な発言をしてしまう事や、個人的に掲示している写真やカレンダーなどに過度な性的表現があり周囲に不快と感じる人がいる場合などが挙げられます。代償型のセクハラの例としては、性的な要求を受け入れなければ昇給/昇格しない、あるいはそれを拒否したために解雇や配置転換がなされるなどという事が挙げられます。

また、単純に「〇性だからこの業務をしなくてはならない」「〇性しか雇用しない」といった場合も、性やジェンダーに関する雇用差別という事でセクハラであり、Sex Stereotyping (性に対する固定概念)と呼ばれています。ちなみに、セクハラが発生しているにもかかわらず、上司やマネジメントが適切な対応が取れていない場合は違法行為とみなされる場合があるので、注意が必要です。(「まぁまぁ・・・」と言って、状況を丸く収めようとする事もNG)

また、セクハラ問題に関しては「報復行為(Retaliation)」に対する認識も重要となります。これは、セクハラの告発者やその協力者に対して雇用上不利な扱いをするという違法行為で、例えばセクハラの苦情を申し立てた人を解雇する、調査に協力した人の悪い評判を流す事などが挙げられます。そして、この報復行為が及ばない様、セクハラの告発者や証言者は法律で守られた立場にあり、その状況を踏まえてProtected Activities(保護された活動)と呼ばれています。

最近、日本では「それ、セクハラですよー」といった調子で、少し冗談混じりで「セクハラ」という単語が使われる事もありますが、アメリカでは「セクハラ」は重みのある言葉で、その単語が出た時点で必ず解決しなくてはならないレベルのものであるという認識が求められます。


セクハラ防止のためのHRの重要性
セクハラ問題を未然に防ぐためには、まずは組織内の全ての人がセクハラに関して正しく理解する必要があります。特に代償型のセクハラという部分では、部下を持つ立場の人たちに正しい理解が求められますが、それだけではなく、職場全体にセクハラが発生しない様な雰囲気・文化を醸成する事がポイントとなってきます。

そして、上述の様な雰囲気・文化を醸成させるためには、Human Resources (以後: HR)の部署が大きな役割を果たします。HRの役割の一環として、組織の方向性に合わせた雰囲気・文化作りのプランニングという、いわば経営企画的な機能だけでなく、そのプラン運用まで担っています。

また、組織の監督管理責任も果たすため、セクハラが発生した場合はHR主導で対応する事や、対応のための手続き(Investigation Process)やセクハラに関するポリシーの作成や普及(Implementation)もHRの業務の一環となっています。場合によっては、組織規模の関係で内部にHR部門が無いという事もあるかもしれませんが、そういった場合は外部にその機能を委ねる必要があります。

いずれにせよ、問題が発生しない様、セクハラの定義を正しく理解する事やそのための教育がしっかりとなされる事がセクハラ問題の発生を防ぐ第一歩となるため、例えば、法定の研修実施義務が無い地域であったとしても定期的にセクハラ防止研修を行うなど、対策を考えて行く事が重要になります。これを機に、セクハラに対する理解を深める事や、その対策に関して考察されてみるのはいかがでしょうか。(2019年4号)


関連動画:【日本とは違う!】アメリカのセクハラの定義とは【まとめ】

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