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#短編小説

桜の頃

桜の頃

 はらはら散る桜の花びら。私の意識は朦朧としている。現世か幻かわからない。もう私の命は風前の灯。この時期で良かった。かの人に一目会ってこの世を去りたいもの。何もなさず、何も残さなかった私の唯一の執着。

 かの人に会ったのは、物心ついた頃だった。私の家には桜の木があった。私は、その下で桜の花びらを集めていた。桜の毛氈。花びらは柔らかく、淡雪のよう。夢中になって拾っていた。さあっと吹く風。舞い上がる

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震えるキス

震えるキス

 「キスして。」

 泣きながら、ミハルは言った。もう会えない。会うこともかなわない。ミハルとさよならしなければ、ならないから。ミハルが目覚めたら、俺はもういない。

 俺は、ガジュマルの木の精だ。なぜ人の形を取ったのか。

 ミハルに恋をしたからだ。

 俺は、ガジュマルの観葉植物だ。俺をミハルが、連れ帰ってくれたのだ。

 ミハルは、俺を日当たりのいい窓際に置いてくれた。

 目覚めたら、おは

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ヴァンパイアの恋人

ヴァンパイアの恋人

 安堵と悲嘆が入り混じった気持ち。それが正直なところだ。

 夜、彼は言った。

「永遠なる命は哀しい。愛しいあなたの血は、俺を生かす。けれど…」

彼は眉根を寄せた。

「あなたの血を含むことは、あなたの命を縮めること。」

 私はいやいやをする。

「いいの。あなたが居てくれたらいいの。あなたのためなら、私はいくらでも血をあげる。ずっと一緒よ。」

彼は悲しい悲しい目をした。

「好きな人の苦

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ポケットドラゴン〜日曜朝ごはん編〜

ポケットドラゴン〜日曜朝ごはん編〜

「コウタ、コウタ。朝だよー。」

俺の鼻先を、いわく言いがたい感触が掠る。うーん、なんつーか、爬虫類の尻尾のようだけれど、ヌメッとはしてない感じ。奴だ。今日は、日曜だよ。ゆっくり寝させてくれー。

俺は、布団の中に潜り込む。奴は、布団の上でポンポン飛び跳ねているようだが、小さくて、軽いので、全然、効かない。もう、ひと眠り出来そうだ…と思っていたら、奴の声が聞こえた。

「起きないねぇ。どうしたら、

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ポケットドラゴン

ポケットドラゴン

ある日曜の朝。秋らしいうろこ雲。空は高く、風は心地よく吹いている。 平和だ…。と思いながら、俺はベランダで洗濯物を干していた。ワイシャツが翻り、白さが際立っている。よしよし、と俺は自己満足に浸りながら、下着を干そうとした。洗濯カゴにかがみ込んだ瞬間、

ごちっっ。

額に何かが激突した。星が飛ぶ。ついでに意識も飛んだ。

「…お兄さん、お兄さん」

なんか、額をぺしぺし叩かれてるような感触がする。

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白雨

白雨

急に暗くなったかと思うと、雨が降ってきた。前が見えないくらい、激しい雨だ。男は、駆け出した。とりあえず、軒先で雨宿りしなければ。

男は、ようやく見つけた小さなお堂の軒先に飛びこむ。その時には、もうびしょ濡れだった。懐にある手拭いを取り出すも、それもびしょ濡れだった。

「ちぇっ、手拭いが絞れるくらいびしょ濡れじゃねえか。いきなり、土砂降りだもんなあ。ちいっとは手加減してくれよな。」

軒先から見

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龍虎相打たない

龍虎相打たない

散歩。散歩。空中を散歩。今日は、空も晴れ渡り、気持ちがいい。僕の鱗が日差しを浴びて、きらきらと輝いている。

 僕は龍。ギョロ目に長い髭。長い胴体。手には、七色の宝玉。雨を降らせ、雷を呼ぶ。空を飛び、海を統べ、竜穴という地中に穿たれた穴を自由に行き来することができる。

 「おーい、龍くーん。」

 荒々しい岩のてっぺんに、虎くんがいた。黄色と黒の縞模様。ピンとたった尻尾。凛々しい目の輝き。

 

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