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チビチビのねじねじ
2024年4月7日 17:27
はらはら散る桜の花びら。私の意識は朦朧としている。現世か幻かわからない。もう私の命は風前の灯。この時期で良かった。かの人に一目会ってこの世を去りたいもの。何もなさず、何も残さなかった私の唯一の執着。 かの人に会ったのは、物心ついた頃だった。私の家には桜の木があった。私は、その下で桜の花びらを集めていた。桜の毛氈。花びらは柔らかく、淡雪のよう。夢中になって拾っていた。さあっと吹く風。舞い上がる
2020年8月13日 07:24
「キスして。」 泣きながら、ミハルは言った。もう会えない。会うこともかなわない。ミハルとさよならしなければ、ならないから。ミハルが目覚めたら、俺はもういない。 俺は、ガジュマルの木の精だ。なぜ人の形を取ったのか。 ミハルに恋をしたからだ。 俺は、ガジュマルの観葉植物だ。俺をミハルが、連れ帰ってくれたのだ。 ミハルは、俺を日当たりのいい窓際に置いてくれた。 目覚めたら、おは
2020年8月25日 07:02
安堵と悲嘆が入り混じった気持ち。それが正直なところだ。 夜、彼は言った。「永遠なる命は哀しい。愛しいあなたの血は、俺を生かす。けれど…」彼は眉根を寄せた。「あなたの血を含むことは、あなたの命を縮めること。」 私はいやいやをする。「いいの。あなたが居てくれたらいいの。あなたのためなら、私はいくらでも血をあげる。ずっと一緒よ。」彼は悲しい悲しい目をした。「好きな人の苦
2020年8月17日 19:14
「コウタ、コウタ。朝だよー。」俺の鼻先を、いわく言いがたい感触が掠る。うーん、なんつーか、爬虫類の尻尾のようだけれど、ヌメッとはしてない感じ。奴だ。今日は、日曜だよ。ゆっくり寝させてくれー。俺は、布団の中に潜り込む。奴は、布団の上でポンポン飛び跳ねているようだが、小さくて、軽いので、全然、効かない。もう、ひと眠り出来そうだ…と思っていたら、奴の声が聞こえた。「起きないねぇ。どうしたら、
2020年8月17日 19:07
ある日曜の朝。秋らしいうろこ雲。空は高く、風は心地よく吹いている。 平和だ…。と思いながら、俺はベランダで洗濯物を干していた。ワイシャツが翻り、白さが際立っている。よしよし、と俺は自己満足に浸りながら、下着を干そうとした。洗濯カゴにかがみ込んだ瞬間、ごちっっ。額に何かが激突した。星が飛ぶ。ついでに意識も飛んだ。「…お兄さん、お兄さん」なんか、額をぺしぺし叩かれてるような感触がする。
2020年8月14日 07:03
急に暗くなったかと思うと、雨が降ってきた。前が見えないくらい、激しい雨だ。男は、駆け出した。とりあえず、軒先で雨宿りしなければ。男は、ようやく見つけた小さなお堂の軒先に飛びこむ。その時には、もうびしょ濡れだった。懐にある手拭いを取り出すも、それもびしょ濡れだった。「ちぇっ、手拭いが絞れるくらいびしょ濡れじゃねえか。いきなり、土砂降りだもんなあ。ちいっとは手加減してくれよな。」軒先から見
2020年8月10日 16:23
散歩。散歩。空中を散歩。今日は、空も晴れ渡り、気持ちがいい。僕の鱗が日差しを浴びて、きらきらと輝いている。 僕は龍。ギョロ目に長い髭。長い胴体。手には、七色の宝玉。雨を降らせ、雷を呼ぶ。空を飛び、海を統べ、竜穴という地中に穿たれた穴を自由に行き来することができる。 「おーい、龍くーん。」 荒々しい岩のてっぺんに、虎くんがいた。黄色と黒の縞模様。ピンとたった尻尾。凛々しい目の輝き。