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深く、毅然と呼吸する。

この世界が何のためにあるのかと言われたら、そんなことはどうでもいいと、今は言える気がする。僕は、双極性障害を患っていて、気分の上下が激しい。昨日までは、どん底に居て、ベッドから起き上がることもままならなかったことを覚えている。

その辛さをInstagramに投稿したところ、数少ない友人やフォロワーの皆さんからたくさんのメッセージをいただいた。昨日の自分は、そんなことで自分の気持ちが戻るわけないと思っていたが、今日振り返ると、やっぱり人の言葉というものは嬉しいものである。送ってくれたみんな、本当にありがとう。

そんな自分を一番救ってくれたのは、昨日の友人からの電話だった。

職場が僕の住んでいる最寄りということで、急に電話がかかってきて、「今からマック行っていいですか」と一言。

僕はその前、このまま家に居たらヤバいと思い、意識が朦朧とした中でマックに行った。上着を着る余裕もなかったから、トレーナー一枚で外に出ていた。寒かった。そんなところに、一本の電話。なんで自分に電話がかかってきたのかを、考える暇もなく、今から会おうと言うことになった。

マックが22時までだったので、その友達の職場で話すことになった。マックを出ようとしたとき、待ってくださいよ、と彼が言った。「僕もせっかく来たならマックが食べたい」と言い始め、注文をしていた。彼が頼んだのは、エビフィレオだったか、あまり覚えていない。

寒空の中、寒いっすねえとか言って、彼の職場まで行った。その道中では、何を聞かれることもなく、ただ二人で道を歩いていた。そして、職場に着いて、エレベーターで上がった。いつもだったら多く人がいるその部屋には、人はいなかった。そこの椅子に腰かけて、二人で話し始めた。大きな部屋で、カフェみたいな感じの部屋だ。

その友達は、とても朗らかで、落ち着いていて、自分がこんなに落ち込んでいるのに、いつも通り接してくれた。白湯がいいですよと言ってくれて、温かい白湯を出してくれた。その白湯が、喉を通ってゆっくりと体に染み渡り、ほっと心が落ち着いていったことを、陽が明けた今日でも鮮明に覚えている。

その友達に、その時のありのままに、自分のことを話した。なんで心が落ちてしまっているのか、今どういうことを感じているのか、何を思って、これからどういう不安があるのか。全てを洗いざらい話した。友達は、ゆっくりと頷きながら、マックを食べていた。マックを食べ終わった後は、一緒に白湯を飲んだ。

僕は、ここ一か月ぐらい、呼吸が浅かったらしい。

身体感覚と心の感覚の両方から、自分のことを見てくれる彼には、そう映ったらしい。

確かに、昨日の落ち込んでいるときの自分は、呼吸が浅かった。そこから、時折、会話中に深呼吸を挟むと、だんだんと心が落ち着いてくるのが分かった。世界はこんなにも静かなのかと、久しぶりに心が落ち着いた気がした。気分がいいときの自分は、何でもかんでもスピードを上げてしまうことが多い。だからこそ、そういう時も、呼吸が浅かった。

「ご飯をゆっくり食べてください」

突然、分かった、と言い出した彼からの言葉だった。最初は「?」が自分の頭の中に思い浮かんだが、彼が言う言葉に意味が無い言葉があるとは思えないから、自分で解釈してみた。

確かに大切だと思った。呼吸が浅く、考えることをフルスロットルでやっていた自分にとって、最近は「感じる」ということをしていなかったことをその時に思い出した。

「感じることと考えることは同時にできないので、何事も連想して考えすぎているこいちゃん(筆者のあだ名)には、それが一番いいと思います。」

普段から、あまりアドバイスというものをしない彼が、僕に言い切った言葉は、すっと心の中に入ってきた。

そして、なんだか少し、水を得た魚、自由になった気がした。その時に飲んだ白湯が、じんわりと体の中に通っていく感覚を、彼と一緒に感じて、少しずつ心が上向きになっていった。

そこからは、だんだんと元の調子を取り戻して、深呼吸をしながら自分のことや彼のことを洗いざらい話した。これからのこと、将来のこと、彼の今のこと。良い時間だった、電話してきてくれてありがとうと、本当に思っている。

鳥は孤独なんだと思う、大きな空を飛ぶことができても、その空の大きさを測ることはできないと言う。だからこそ、孤独。

僕はそんな、鳥だったと思う。

空の大きさを知らずに、ただ目の前の空気を切り裂いて、進むことだけを考えている鳥。だから辛かった、だから苦しかったのだと思う。冬という季節だからこそ、器官が縮こまり、上手く呼吸ができずに、視野が狭まっていたのかもしれない。

そんなことを話しながら、23時ごろに解散した。彼は、僕の家まで送ってくれた。自分にもこういう友達ができたのかと思って、なんだか今思うとすごく嬉しい、すごく嬉しい。

次の朝、僕は、一回起きて、二度寝した。

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