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雨の日には冷えたスプーンを一生のハバネロ、いかがですか一

※お立ち寄り時間…5分

以前、一緒に働いていた上司を思い出すと、ヨーロッパ在住時に、よく起こっていた不正乗車を思い出す。

私が住んでいた国では、メトロに乗る際に、全く切符を持っているか確認しなかった。
と、いうのも、地域の人は、車か年間パスポートを購入しているからだ。

たまに、期限が切れたパスポートで、しれっとメトロに乗ったりする人もいる。
私の友人たちは、大変「やんちゃ」であったため、よく不正乗車をしていた。

「たまにはいいのよ」


ひらひらと私に手を振って、ウィンクしてみせた。まるで、校舎の裏でタバコをこっそり吸うみたいに。

勿論、上司が不正乗車をしていた訳ではない。

仕事の息抜きが上手な人であった。


とある日、別室に呼び出された。
業務内容が大きく変わり、「ミスしちゃったかな」と泣きべそをかきながらノックすると、いつも通りの様子でその上司が待っていた。

「まず、肩の力を抜きましょう」


私は、自他共に認める「クソ真面目」だ。
自慢じゃないが(自慢です)今まで一度も期日を過ぎたことはない。

年間、月間、週間、日単位でスケジュールを組み、必ず水曜日の午後は、仕事を入れないようにしていた。

というのも、人事系の仕事だったため、突発的な業務が多く、スケジュールが押しがちだったからだ。

そんな調子で仕事をしていると、四の五の言わず、効率重視になる。スケジュール通りいかないときは、残業も厭わなかった。
兎に角、期日を守って、失礼のない様にしなきゃ、ばかりだった。

全く、仕事が楽しくなかった。

仕事と家の往復だけになり、休日は家の中でダラダラ過ごす様になっていった。
朝起きるのも辛くなって、月曜日が怖かった。

「たまに、手を抜いてください。
 案外、誰も気がつきません」


きっと、段々と仕事が辛くなり、心が窮屈になってきていることに気がついたのだろう。

「それから、楽しみを見つける様にしましょう」


それから、私は、上司の3つのアドバイスを、懇切丁寧に守った。
何度もいうが、クソ真面目なのです。

すると、だんだんと仕事がスムーズに運ぶ様になった。電話の初めに世間話をしたり、冗談を言ってみたり。期日のない仕事は、少し先延ばしにしたり。

心と時間に余裕ができたのもあって、休日も家に引き篭もるだけでなく、仕事上で教えてもらった本を読んだり、お店に足を運ぶ様になった。

楽しい、楽しい、楽しい!

たまに、手を抜いて、肩の力を抜いて、楽しみを自分で意図的に仕掛ける。


やりがいや情熱を燃やし続けることも大切だが、「やんちゃな気持ち」を持ち続けることが、仕事を続けていく上で、非常に大切なのだと改めて実感した。

その上司が異動するとき、感謝の意を込めて、この話をしたところ、うんうん、と神妙な面持ちで、こう最後に呟いた。

「生のハバネロ、もらったんですが、いかがですか?」


涙より先に笑いが腹の底からこぼれた。
やっぱり、この「やんちゃ」な上司が好きだ。

いつか、また一緒に仕事がしたい。
向こうは、どうか分からないけれど。

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