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イノベーティブな企業文化を創るのが難しい理由とその要因となるパラドックス

本noteは、Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー)で掲載されていた『The Hard Truth About Innovative Cultures (イノベーティブな企業文化の真相)』を要約し考察を加えたnoteです。途中、直訳したために日本語が短調だったりわかりにくい部分がありますが、読者の創造力で補ってください。

本著では、以下の5項目をイノベーティブな企業文化を作るのに難しいと言われる要因としてそのパラドックスと一緒に紹介しています。

1.失敗には寛容だが、無能には寛容ではない組織

2.チャレンジ意欲はあるが、規律が厳しい組織

3.心理的安全性はあるが残酷なまでにずけずけ言う組織

4.協力的だが、個別の説明責任を伴う組織

5.フラットだが強いリーダーシップのある組織


1.失敗には寛容だが、無能には寛容ではない組織

Tolerance for Failure but No Tolerance for Incompetence

イノベーションが不確実で未知の領域の探究を伴うことは新規事業担当者or起業家であれば誰しも知っていることです。GAFAと呼ばれる企業でさえ失敗したプロダクトはたくさんあり代表的な例はAppleのMobileMe、GoogleのGoogle Glass、AmazonのFire Phoneなどです。(ちなみに私は以前、サンフランシスコに行った時に、元Google Glassの開発責任者とお会いして開発当初の話を聞いたことがある。)

しかしこれらの企業は単に失敗に対して寛容なのではありません。"すべてのスタッフが最高の人材であり有能である"という前提があるため成立している企業文化なのです。

日本の終身雇用制度もないそれらの国では、期待に応えられない人は解雇されるか自分の能力に合った役割に移されます。厳格な業績管理システムを採用しており、既存の仕事が優秀でなければ新しい仕事に飛ばされます。

・スティーブ・ジョブズは、能力がないと判断した人を解雇することで有名
・アマゾンでは、従業員は強制的なカーブでランク付けされ、分布の一番下の部分が淘汰される。
・グーグルは、非常に従業員に優しい文化を持っているが、そもそも就職が難しい場所の一つである。(年5,000人のポジションに対して200万人以上の応募がある。合格率なんと0.25%)

実は、失敗を許容するためには、非常に有能な人材が必要です。失敗は不確実性の高い道筋をより明るくするための材料として非常に有益な情報ですが失敗にも優劣があり、わずかにしか考え抜かれなかった設計、欠陥のある分析、透明性の欠如、マネジメント不足などは、事前に防げる失敗となります。

"生産的な失敗"とは

生産的な失敗はそのコストに見合った価値ある情報をもたらします。失敗とは、それが学習につながった場合にのみ祝福されるべきなのです。

失敗を喜ぶのではなく、失敗によって得られた学習を祝うべきなのである。

これまでに知らなかった技術的な問題が原因で期待通りの性能を発揮できなかった単純な試作品は、その新しい知識が将来の設計に応用できるのであれば称賛に値する失敗です。

ちょうど、先週話していた世界からも注目されている医療プロジェクトのPMをされていた方が「失敗に価値があるのではなく、それまでに準備したことに価値がある。」と話していたのをふと思い出した。

能力重視の文化を構築するには、期待されるパフォーマンスの基準を明確に示す必要があります。そのような基準が十分に理解されていなければ人事の難しい決定は気まぐれなものに見え、最悪の場合、失敗に対する罰として誤解されたりする可能性があるからです。マネージャーはパフォーマンス基準を明確かつ定期的に伝えなければなりません。

『生産的な失敗に許容する』ことと『無能を根絶すること』のバランス

これらのバランスをとることが難しい理由の一つは、失敗の原因が必ずしも明確ではないからです。製品設計に欠陥があった場合、エンジニアの判断ミスなのか、それとも誰かが見落とした問題があったのか、それとも技術的判断やビジネス上の判断が間違っていたのか。それらの問題を追及しようとすると自然と失敗への寛容さが失われていきます。

果たして、能力ある人材とはどういったスキルあるいは素質を兼ね備えた人材のことをいうのか。は後への宿題としておく。

2.チャレンジ意欲はあるが、規律が厳しい組織

Willingness to Experiment but Highly Disciplined

チャレンジを受けれる組織は、不確実性と曖昧さを受け入れています。前もって答えを提示せず、分析もしない。すぐに市場性のある製品やサービスを生み出すためにチャレンジするのではなく、学ぶためにチャレンジすることを知っているからです。

しかし、チャレンジ意欲と言っても、無作為にキャンパスに絵具を投げつける三流画家のように働くことではありません。チャレンジとは規律がなければ、ほとんどなんでもチャレンジと称することができることに注意する必要があります。

規律を重視する企業文化では、チャレンジすることによって得られる潜在的学習価値が有益なものかを慎重に選択し、そのコストと比較して可能な限り多くの情報、知見が得られるように緻密に設計されています。またチャレンジよって新しく得られたアイデアを前進するか、修正するか、あるいは中止させるかの明確な基準を最初に確立していることが多いです。そうすることによって、さらに新しいことに挑戦する余白を作れるのです。

チャレンジへの意欲と厳格な規律を兼ね備えた文化の良い例

マサチューセッツ州ケンブリッジのフラッグシップ・パイオニア社の社内企業コンテストでは、一次審査ではどんなアイデアでも歓迎します。「もしこれが本当だったらどうだろう」「もしこれが本当だったら、それは価値があるのだろうか」と問いかけることにしています。決して、「これは本当か?」「このアイデアを裏付けるデータはあるのか?」とは聞きません。なぜなら不確実な未来であることを知っているからです。

さらに、リソースが多ければ多いほどスピードと創造性が増すと勘違いして多額の資金を投入する多くの企業とは異なり、通常100万ドル以下の費用と6ヶ月以内の期間で検証サイクルを回すことにしています。これによって何が間違っていたのかを早期に学習し、より有望な方向に迅速にシフトすることができます。

規律あるチャレンジとは、バランスをとる行為です。リーダーは人々に理不尽なアイデアを楽しむように促し、仮説を立てる時間を与えたいと考えています。データを要求して仮説を確認したり、すぐに消したりするのは創造性に必要な知的な遊びを潰してしまうことを理解しておかなければなりません。どのプロジェクトを前進させ、どのアイデアを再構築し、どのアイデアを中止させるかには、科学的・ビジネス的な判断が必要です。リーダーは、個人的に応援していたプロジェクトを科学的・ビジネス的な判断で中止を促すなど、規律を模範化する必要があります。

3.心理的安全性はあるが残酷なまでにずけずけ言う組織

Psychologically Safe but Brutally Candid

心理的安全性とは、個人が報復を恐れることなく、問題について正直に率直に話すことができると感じられる組織環境のことです。

例えば、心臓外科チームによる新しい低侵襲手術技術の採用に関する調査を行ったところ、問題を安心して話すことができると感じた看護師がいるチームの方が、新しい技術をより早く習得していたことがわかりました。人々が批判することを恐れ、上司の見解に率直に挑戦し、他人の考えを議論し、反対意見を述べることを恐れているならば、イノベーションは潰されてしまいます。

正直な組織が必ずしも最も働きやすい環境であるとは限りません。率直な議論の文化を構築することは、人々が対立を避ける傾向にある組織や、そのような議論が礼節の規範に違反しているとみなされる組織では困難です。リーダーは、相手の考えを建設的に批判することに意欲的でなければなりません。

4.協力的だが、個別の説明責任を伴う組織

Collaboration but with Individual Accountability

うまく機能するイノベーティブな組織には多様な人々からの情報提供や協力が必要です。しかし、それらが多すぎると迅速な意思決定や複雑な問題解決に毒となります。最終的には、誰かが意思決定を行い、その責任を負わなければなりません。説明責任文化とは、個人が意思決定を行い、その結果を自分のものにすることを期待される文化である。

ピクサーは、映画監督にフィードバックを提供するためにいくつかの方法を用意していますが、同社の共同創立者であり社長であるエド・キャトマル氏が著書『Creativity, Inc.』の中で述べているように、映画監督は、どのフィードバックを受け止め、どのフィードバックを無視するかを選択し、映画の内容について責任を負うことになります。

5.フラットだが強いリーダーシップのある組織

Flat but Strong Leadership

文化的にフラットな組織では、人々は行動を起こし、意思決定を行い、意見を述べることができます。尊敬の念は、肩書きではなく、能力に基づいて与えられます。文化的にフラットな組織では、意思決定が分散化され、関連する情報源に近いところで行われるため、急速に変化する状況に迅速に対応することができます。文化的にフラットな組織は、階層的な組織に比べて、貢献者のより広いコミュニティの知識、専門知識、視点を活用しているため、アイデアの多様性が豊かになる傾向があります。

ただし逆説的に、平らな組織は階層的な物より強いリーダーシップを要求します。。平らな組織はリーダーシップが明確な戦略的な優先事項および事業方向性に失敗したとき混沌します。

アマゾンおよびGoogleは意思決定および説明責任が押され、すべてのレベルの従業員が革新的な考えを追求するために自治権の高度を楽しむ非常に平らな組織です。しかし、両社には、それぞれの組織がどのように運営されるべきかについて、目標を伝え、重要な原則を明確にした、非常に強力で先見性のあるリーダーがいます。

フラットな組織と強いリーダーシップの間のバランスを正しくとることは難しいことです。リーダーには、説得力のあるビジョンと戦略(大局的なもの)を明確にしながら、同時に技術的な問題や業務上の問題にも精通し、有能であることが求められます。

スティーブ・ジョブズは、この能力を持ったリーダーの好例です。彼はAppleのために強力なビジョンを打ち出しながら、技術的な問題やデザインの問題に夢中になっていました。従業員にとってフラットであることは、自分自身の強力なリーダーシップ能力を開発し、行動を起こし、決定に対して説明責任を負うことに慣れていることを必要とします。

終わりに

巷では「イノベーションの起こし方」「イノベーションを起こすには」などと言ったイノベーションを導くための方法論が多く出回っているが、その大前提としてイノベーションは組織が生み出すもの(形作るもの)であることを考慮していなければ、ただのアイデアで終わってしまう。だからと言ってイノベーションをおこせる組織を構築すれば済む話ではない。(もしそうであれば既に世の中はイノベーションに満ち溢れたサービスや製品だらけになっているはずである) 

"なぜイノベーティブな組織を作ることが難しいのか。"その問いに対する答えの解像度を上げるためにこの記事は大いに役立った。



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