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国会議員の秘書 51(自民党が野党に)

 平成5年の夏、私は、総選挙と京都府議会議員補欠選挙を終えてようやく東京に戻った。第二議員会館の事務所に出勤すると選挙前と打って変わって、議員会館の雰囲気が暗く見えて、どんより曇った感じがした。この選挙で経世会からは、新人議員が3名当選していた。鹿児島から建設省出身の松下忠洋先生、岡山からは、厚生省出身の熊代昭彦先生、山梨からは、建設省出身の横内正明先生が当選された。3名とも私たちと同じ第二議員会館の3階のフロアに入られていた。私が事務所に入り、自分の机に座って新聞でも読もうとすると先輩の女性秘書から「⚪︎⚪︎さん横内先生の事務所にいるよ。」と言われたので嬉しくなって「え〜。そうなんですか。ちょっと顔見に行ってきます。」と言って、308号室の横内先生の事務所に訪ねて行った。すると金丸先生の事務所の秘書さん2人が、笑って私を迎え入れてもらった。
あの事件の後だったので、このようなことになるとは、思ってもいなかった。地元でも金丸先生の秘書をされておられた方がおられると聞いて安心した。私は、それから毎日のように横内先生の事務所に顔を出した。また、横内先生の弟さんも事務所におられて話しやすく、楽しい事務所だった。今でも横内先生の弟さんとは、たまに連絡を取らせてもらっている。横内先生も腹の座った方でいつもニコニコして私に、「やまちゃん、何か面白いことはないかね!」と言いながら、冗談を飛ばされる気さくな先生だった。新人の先生方の事務所は、皆さま喋りやすい事務所だった。
しかし、野党になってしまった自民党は、この時全体的に暗い雰囲気が漂っていた。党本部で毎朝開催されている部会や調査会も無気力のような状態で与党の時に、部会に出席していた霞ヶ関の官僚も局長や審議官であったが、自民党が野党に転落すると霞ヶ関も課長クラスが部会や調査会で説明するようになった。党本部は、一気に、活気がなくなっていた。
野中先生はというと、京都府の府議会議員時代は、与党経験はなく、ずっと野党だったので、「これからは、言いたいことが言える!」とやる気満々な様子であった。この時は、予算委員会の理事をもらい、深谷隆司先生が筆頭理事で2人で張り切っていた。ちなみに、深谷先生も都議会議員時代は、野党経験者であった。2人が予算委員会では質問によく立たれたのである。予算委員会は、NHKの中継が入り、中継がある時に代表質問に立たれることが多々あった。中継を観た後援会の方から感想などの連絡が頻繁に入るようになった。
野中先生は、委員会で質問する時は、原稿を作らない。簡単なメモを作り、質問する項目だけが書かれているものを委員会に持ち込み、質問は、その時のほとんどをアドリブでされていた。気の毒だったのは、質問を取りに来られる国会内にある政府委員室というところに派遣されている各省庁の職員さんたちである。彼らは、質問に立つ議員からどのような内容を質問されるかをいち早くキャッチして自分たちの本省の担当に答弁を作るために連絡しないといけない。野中先生には、梃子摺られたと思う。政府委員室の職員の方が「先生ご質問を何とか教えてもらえますか?」と食い下がると「君たち安心しろ、君たちには、全く関係ないがないよ。大臣個人にしかわからない問題だ。だからそれを質問するから!」と言われて質問を取れなかったのは、忍び無い思いをしたがスキャンダルを抱えている人が大臣をしているのだから仕方がないし、官僚たちがその答弁を考えるのもおかしな話である。
そうしているうちに、予算委員会の質問の日がきた。
野中先生は、独自で調べた数人の大臣と今まで自分が問題に思ってきた政策について自民党を代表して政府側に正された。大臣のスキャンダルについての質問も、トドメを刺せるまで調べがついていた訳ではなかったが、テレビ中継があるので言い切るぐらい迫力を持って言わないと観ている人たちにも説得力がない。私たち秘書は、まだまだ確証に至るまで調べられてなかったので心配していた。質問が始まってスキャンダルの部分に野中先生が触れると事務所の電話が何本も鳴り出した。一つは、大臣たちの後援者であろう方たちの抗議の電話。もう一つは、テレビを観ている方たちの感想やこちらの後援会の方の応援電話。そしてもう一つが、質問したスキャンダルに関連しての情報提供などであった。スキャンダルの情報提供に関しては、ハズレのものもあるのだが、信憑性があるものがあり、信憑性のあるものに対しては、野中先生に報告すると、その方とお会いして話を聞いてくるように言われた。情報提供者の方の電話番号を聞いて再度お会いする約束の連絡をする。指定された場所に伺うと先方は、写真や資料などを持って来られてたりする。このようにしてどんどん資料が集まり、スキャンダルを抱えている大臣の確証に迫ることが出来るようになってきた。改めてテレビ中継というものの恐ろしい一面を見た感じがした。(続く)

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