大分トリニータと片さんとの冒険はまだ終わらない。
世紀のジャイアントキリング
しゃゃゃああああ!!!!!
試合終了を告げる笛と共に、ハーフラインから駆け出す大分の面々。
川崎カラーに色づいたトラックで突っ伏す片さん。
PKストップした時のボールを弾く鈍い音。
あの静寂の後に訪れる感情の爆発。
その瞬間、大分トリニータはクラブ史上初の天皇杯優勝に王手をかけました。
この試合は大分トリニータのキャラクターが色濃く表現された、生涯最高の試合の1つでした。
推し中の推しエンリケ・トレヴィザンが土壇場の同点ゴール。
しかも大分サイドのゴールで。
大分サポーター以外の人間100人に聞いて100人が川崎の勝ち抜けを予想していたでしょう。
全ての力を結集させた120分間の死闘。
あの川崎の猛攻を120分間耐えて、耐え抜いてPK戦が最も現実的で、勝ち上がるならこれしかない。ワンチャンスのセットプレーで1発仕留めれば、何かあるかも。
と思っていたサポーターの方もいるかもしれません。
メンバー表を見た瞬間、頭の中には???が並びました。
後ろが3なのか、4なのか、中盤の構成は?と疑問だらけでた。
しかし試合が始まると徐々に片野坂監督が準備した策が見えて来ました。
大分で指揮を取るのが最後になるかもしれない、そんな大一番で採用したのは、これまで1度も見たことも聞いたこともない4-3-1-2でした。守備陣形をセットすると、中盤の「3」がスライドしながら、最も怖いハーフスペースでの川崎の攻撃をシャットアウトさせる論理的で現実的な防衛策です。
確かに、絶対王者川崎の4-3-3は圧倒的です。
簡単な特徴は以下のとおりです。
これらの攻撃が複雑に絡み合い、再現性の高い攻撃を繰り返してくる迫力は、さすが王者の一言でした。
CBエンリケ&ペレイラの最強の助っ人は、同胞CFダミアンをどこまでもマークについて行きました。まさに“すっぽん”です。
この2人だからこそ、カバー&チャレンジが成立し、補完性の高いペアになりました。Obrigado pelo Magnifico Jornada.
CBの片方が外に出たら、SBがすぐに絞る、中盤から降りてくる。とスライドを徹底しました。
④で数的不利な状況を何度も作られましたが、辛抱強く、ディレイさせ侵入されてもコースを限定して守りました。
ターニングポイント43分
ふんわりとしたクロスボールをGKタカーギが処理しようとしたところボールをこぼしてしまいCBエンリケの頭に当たりました。
あ、やっちまったと思ったら、やはり、そこにいました。CBエンリケの背後で待っていたのはCFダミアンです。
この瞬間、死を覚悟しました。
しかし、その刹那、スタジアムに響き渡ったのは乾き切ったポストの音でした。
救われました。確かに角度はありませんでしたが宇宙人CFダミアンならあの角度くらい朝飯前でしょう。
利き足の右足インサイドで当てるだけでしたが、完全に蹴り込みに行って、足を振り抜きました。
この時間になるまでもすでに4点分くらいセーブしていたGKタカーギはまさに、大当たりでした。調子が良すぎるにもかかわらず。簡単なミスであっけなく失点するパターンは嫌なほど見て来ました。凡ミスで自滅するのは降格チームあるあるです。
しかし、あのCFダミアンがミスを犯し、救われた瞬間、大分にツキがありますようにという願望から大分にツキがあるという確信に変わりました。
それからは、みなさんご存知のとおり、神様タカーギが降臨し、ゴールに鍵をかけ、シャットアウトしました。まさにカメナチオ
完璧の読み。決死のスライディグ78分
このシーンも完全にしてやられました。
右サイドを崩され、大分の守備陣が外にどんどん釣り出されました。
この頃には大分の選手が最後の局面では体を投げ出してくると、川崎に選手も知っていました。
CMF脇坂→CFダミアン→WG家長と完璧にPA内を横パスで横断され、WG家長の足元に完璧には入りました。
彼もまた空間と相手をコントロールできる選手です。時間軸が宇宙人です。
絶対にフツーじゃ考えられないタイミングでパス、シュートをして裏をかいてきます。
敢えてのプレーを選択して裏をかいてくるWG家長を完全に読んでいたのは1人だけいました。
GKタカーギです。
最後、WG家長のパスをボックス内でで待っていたのはWGマルシーニョでした。
彼もダイレクトにシュートを打ちましたが、横パスが出る瞬間、GKタカーギは一か八かのスライディングでシュートコースに入る選択をしました。
この選択が功を奏し、GKタカーギの予想どおり足に当たりブロックしました。
あの瞬間の判断は神の所業です。
迎えた113分。
本当に一瞬の出来事でした。
RSB山根に対するプレスが少し緩まったタイミングで元大分・MF小塚和季がダイアゴナルにDFラインの背後を取りました。
オフサイドラインギリギリで抜け出したMF小塚のグラウンダーのパスに合わせたのは川崎の象徴・小林悠でした。MF小塚が抜け出したと同時にCF小林も飛び込んでいたため、大分守備陣は誰も対応ができませんでした。
こればかりは神様GKタカーギもノーチャンスでした。
王者川崎相手に1点ビハインド、残り少ない時間、交代カードもギリギリ。
もはやここまでか、
一瞬、翌日の新聞一面「大分大健闘、王者川崎、死闘を制す。」がちらつきました。
実際にゴール裏も崩れ落ちる人は少なくありませんでした。
それもそのはず、大分は先制されると滅法弱いのです。
ーしかし、ピッチには前を見つめてボールをセットする選手の目は死んでないように見えました。(等々力からピッチは遠いのであくまでもオーラです。)
ベンチは同点弾への布石となる準備を待ってたかのようにスムーズに移行し始めました。
起死回生の120+1分
怪我人と交代枠の関係で10人となっていた川崎に対して、大分はワンチャンスを仕留めようと最後の猛攻に入りました。
CBエンリケを最前線に動かし、CF長沢もセンターに陣取らせ、クロスを多用してボックス内で"何か"が起きることを期待していました。
闇雲にクロスを入れても上背のある両CBに弾かれてしまいます。
ここで一工夫があったのがハーフスペースからのクロスです。
チーム随一のキック精度を誇る、元川崎MF下田北斗からのクロスを淡々と狙ってました。
川崎もわかってたはずです。クロスが来るなら彼の左足からだと。
幸か不幸か相手は10人
どこかで数的不利に陥ります。
その綻びの瞬間は、120分+1に待っていました。
フリーでボールを受けた下田北斗に入りました。
川崎はCMF下田に時間を与えすぎました。
時間の余裕があったことから利き足の左足に持ち替えて、ルックアップしました。
柔らかい軌道で届けられたボールはニアサイドのCBエンリケ・トレヴィザンのもとへ。
ここからは本当にコマ送りでした。
CBエンリケは左手でCB山村を抑えながら、ほぼジャンプなしで頭に当てました。
ゴールに吸い込まれていく、、、、、
これほどコマ送りに見えるゴールは一生来ないでしょう
(過去一は2018年J2最終節vs山形の同点弾です。)
目の前で起きた出来事だったのに何が何だか分かりませんでした。
だって、あの王者川崎に勝つチャンスが残ったのですから。
高木劇場クライマックス
PK戦まできたら、最後は気持ちです。
片さんは、PK前の円陣で言ったそうです。
この言葉で、勇気が出ない人はいないでしょう。
各々が最高のキックをしてくれました。
この大死闘に終止符を打ったのは片さんが信じたとおり、GKタカーギでした。7人目のキッカーRSB山根のキックをストップしたのです。
GKタカーギが言うに、止めた瞬間は勝ったかどうかわからなかったみたいで、みんなが自分のところに走って来てから勝利を感じたそうです。それほど集中していたということでしょう。
冒険のフィナーレは“聖地”国立
2016年にJ3降格後、片野坂監督が就任してから6年が経ち、お別れの時がやってきました。
今のチームは片野坂監督が積み上げてきた功績そのものです。
J3優勝、J2準優勝、J1での躍進、J1残留争い、天皇杯史上初の決勝、苦楽を共にしてたくさんのことをもたらしてくれました。
そんな持たざる地方クラブとOB監督の夢物語はなんとかフィナーレにつなげることができました。泣いても笑っても最後1試合です。
この夢物語はハッピーエンドなのか、そうじゃないのか。最後の相手は浦和レッズです。
恐らく12月19日当日はスタンドは真っ赤に染まりGK西川周作が最後の砦として立ちはだかるでしょう。そんな完全アウェイで優勝する方が、格別に違いありません。
なんたって「クソッタレが原動力」ですから。
逆境に逆境を跳ね返してきた片野坂・大分ならやってくれると信じています。
長くなりましたが、今季大分トリニータで約束の合言葉となった一言で締めたいと思います。
「スタジアムから笑って帰ろう。」
それではこのへんで、、、
ばいころまる~
P.S.
⭐️12月19日は町田也真人選手の誕生日です。2020年12月19日はvs鳥栖でゴールを決めています。
⭐️今季vs浦和レッズの2試合で3得点(大分の全ゴール)が彼です。
⭐️大分トリニータは国立競技場で公式戦4試合3勝1分(タイトルマッチ決勝は2連勝中)
何かと、大分に味方しそうなデータが多いですが、むしろ多すぎて少し怖いです。
絶対、勝つしかねぇので!!!!!