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蛇、直立不動
荒梅雨のさなか、ほんのひと時、雨がやんでいた真昼のこと。家のすぐ前のアスファルトに、体長1メートルほどの細い蛇が現れた。頭の形が四角く、体にはタテに縞模様があるため、毒のないシマヘビかな、とも思ったのだが、近づいてみるとマムシに似た模様があるようにも見える。
どちらにしても、庭のめだか鉢には馴染みのヌマガエルが住んでいるため、できればうちには入ってきてほしくはない。
ほどなく蛇はすべるように、でも体のどこかに小さな引っ掛かりがあるかのように、細かなS字を描きながら、するするとアスファルトを渡って来た。
そうして、ありがたいことにうちには来ず、塀に沿って隣家へと進み、キンモクセイの大樹の下で動きを止めた。
「何をするんだろう」
そう思う間もなく、蛇はいきなり鎌首をもたげて、そのまま体をすうーっと上に伸ばしてゆく。まるで妖怪ろくろ首が長い首をまっすぐ立てるような具合に、何の支えもない木下の空間に蛇が直立している。と、ゆるり、と体はやわらかになり、頭からキンモクセイの下枝に絡みつくと、驚くような速さで枝を上り、樹上の茂みに消えていった。
蛇の直立…。
あまりにシュールな光景に、
「夢?幻?いやいや、本当にあったことだよね」
しばし呆然としてしまう。
それにしても、手足のない生き物の筋力と、あまりにも無駄のない動き。
家に入ってからも蛇のことばかりを考えつつ、それから一日中、直立した蛇の再現を頭の中で繰り返すこととなってしまった。
うちのめだか鉢のかえるさん。蛇ニモ負ケズ、長生きしてね!
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