The Analects of Confucius
前回投稿の「ソクラテス」と並んで「孔子」の名前を出したので、今日のタイトルは「論語」にしました。
analects は選集、Confuciusは孔子の意味です。「論語」は孔子と弟子の言行録で、孔子の死後短くとも半世紀以上かけて現行の形になったと考えられています。
「Confucius says(子曰く)」や「A mere scholar, a mere ass.(論語読みの論語知らず)」などは聞き覚えがあると思います。
「温故知新(visiting old、learn new)」は論語に由来する四字熟語です。
2024年から新一万円札に登場する近代日本資本主義の父と言われる「渋沢栄一」の著書「論語と算盤」でも「論語」はよく知られています。
著名な経営者に読まれていて、ビジネスマンにも推奨されているので、渋沢栄一のことも機会をみて書こう思います。
高校で「論語」を習った人も多いと思いますが、社会人・家庭人としての経験を積んでから読んだ方が実感として理解できることが多々あります。
周知の通り、孔子は中国の思想家で、儒教の始祖です。
江戸時代の日本では全国に一万数千カ所を数える寺子屋で庶民までもが「論語」をテキストに学んでいました。
明治維新とその後の発展に儒教の思想・教育が大きく影響しています。
孔子は古代ギリシャのソクラテスより80年程先輩で、中国の春秋時代に生きた人ですが、弟子を通して二人のことばが2500年もの永きにわたって伝えられている事実は両者の主張の普遍性を物語っています。
ソクラテスは孔子と同様に「人生の目的はただ生きることでなく、善く生きることである」と述べています。
孔子は3歳で父親を亡くし、24歳で母親を亡くしているので、家庭人として恵まれていたわけではありませんが、「すべての基本は家庭生活にあり、善き家庭人であることは善き社会人である」とする家庭第一主義でした。
「知らざるを知らずとなすこれ知るなり(Confess your ignorance, and you will escape ignorance.)」は、ソクラテスの「無知の知」に通じることばです。
孔子は「仁」を中心として人倫(人と人との間柄・秩序関係、人として守るべき道)を建設することを目的としていました。
儒家思想の最も重要な倫理・政治上の概念である「仁」は利他の心、他人を思いやり慈しむ心なので、英語で表現すれば「humanity+charity+virtue」のようなニュアンスではないでしょうか?
「論語」は政治家、経営者、ビジネスマン、教師、親子、夫婦、一個人などそれぞれの立場で、数ある言葉の中から参考になる部分をピックアップして活用すればいいと思います。
現代風にこなれた口語訳と、平易な英語訳のあるもので学べば、一挙両得かもしれません。
もし数ある論語の中から一つ選びなさいといわれたら、迷わずに下記を選びます。
「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」
通釈は下記の通りですが、これは少々、むずかしいのでピンときません。
「知者は事物の道理を明らかにしているから疑惑がない。
仁者は常に道理に従っていて私欲が少しもないから常にその処に安んじて憂慮することがない。
勇者は気が道義に配して至大至剛であるから恐懼することがない。」
*至大至剛(しだいしごう):この上なく大きく、この上なく強いさま
*恐懼(きょうく):おそれかしこまること
元慶応高校の佐久 協先生の著書の口語訳がわかりやすい一例だと思いますので、紹介します。
「知者は智慧があるからあれこれ迷うことが少ないし、仁者は日頃から相互扶助を実践しているから、いたずらに不安がらずにすむ。勇者は事に当たって恐れない。知・仁・勇の三つを身につければ鬼に金棒だね。」
(英訳の例)
知:wisdom 仁:humanity 勇:courage
別の章で、孔子は弟子の子貢に向かって「わしはまだ憂(ゆう)、惑(わく)、懼(く)のいずれをも免れないから、勉めなければならない。」
子貢がこれを聞いて、「これは先生が御自身から仰せられるのであって、われわれからみれば先生はこの三つは皆十分お出来になるのである。」
これは孔子が自らを責めて人を勉めさせたとされていて、教育法のひとつです。
言葉の意味を理解しているだけでは単なる知識に過ぎないので、もし気に入った言葉があれば、自分流に解釈をアレンジして生活や仕事に役立てるようにしたらいいでしょう。
弁護士出身で、新型コロナウィルス対策に連日奮闘している大阪府の吉村知事に当てはめてみましょう。
知者:専門家の知見や海外の先行事例などを研究し、先行して大阪モデルを作成し、政策に迷いがなくスピード感がある。
仁者:感染リスクと日々向き合いながら治療に懸命な努力を続ける医療従事者に大阪独自の支援したり、中小企業者や自営業者などへの支援を政府に働きかけたり、わかりやすく進捗状況を色分けで府民に知らせるなど、府民を思いやる心が感じられる。
勇者:大阪はまだ緊急事態宣言が解除になっていない中で、第2波、第3波を想定しながらも、あえて批判にも腹をくくって恐れずに、大阪モデルを指標として、自粛要請を緩和し、段階的に営業再開を決断している。
こんなところが、高い支持を集めて府民をはじめ何かと協力しようという人が多いのではないでしょうか?