最近の自分を振り返って思い出したこと
kon.
最近の自分は何かに没頭して、なんとしてでも手に入れたい、みたいな強い思いが足りない。
>まあ、いいか!こんなもんだよね。
>私、よくがんばってる!ほどほどにいこう〜
と自分に言い聞かせながらやりすごす日々。
何かにがむしゃらになってがんばったのはいつだろう。
そんなことを考えていたら、小学校の苦い思い出が蘇ってきた。
そうだ、あんなにガムシャラになって何かを目指したのは、あのときだ。
小学5年生の春。
運動会で6年生の鼓笛隊の演奏を聴き、私はとても憧れた。
中でも私が目が離せなくなったのは、小太鼓を演奏する6年生の姿だ。ピタッとそろったバチの動き。背筋を伸ばして叩く姿。演奏の要といえる軽快なリズム。
どれもが私を強烈に惹きつけた。
6年生になったら、鼓笛隊で小太鼓をやりたい。
これまで行事などで自分のやりたいことを強く主張してこなかった(おそらく特に執着もなかった……)私にとって、それは初めて叶えたいと思った夢だった。
5年の冬頃だったかな。
来年の運動会に向けて、小太鼓のオーディションがあると先生から聞いたとき、私はかなり燃えていた。
小太鼓は鼓笛隊の中でもいちばん人気があって、クラスに希望者が山ほどいた。私の通っていた小学校はマンモス校だったから、5クラスの中から選ばれし数名のみが小太鼓を叩ける。かなりの激戦区。
私は言われたその日から練習を開始した。
愛読していた少女まんが雑誌「りぼん」をガムテープでぐるぐる巻いて固くして、棒状のもので叩く。
母がそのうちバチを持ってきてくれて、ご飯を食べる以外はずっと練習をしていた。
タカタカタッタ タタタ
タカタカタッタ タタタ
タカタカタン
タカタカタン
タカタカタンタンタン!!!
憧れのリズムを永遠に叩いた。
(うろ覚えだけどこんなリズムだったような気がする……)
何度も何度も繰り返していくうちに、
手首がスムーズに動かせるようになり、
運動会で小太鼓を叩く自分の姿を浮かべながら練習した。
楽しくて、嬉しくて、もう夢中だった。
朝起きると練習。
学校から帰ると友達との遊びも断って練習。
「どう?受かるかな?」
と、お母さんに何度もチェックしてもらった。
同じ5年生の中で、小太鼓のオーディションにそこまで時間を費やしたのは、私ぐらいだったんじゃないかな。
はじめて自分でやってみたいと思えたもの。
そこに向かって努力することは、なんの辛さもなくて、そのときの私にとっては当たり前のことだった。
オーディション当日。
その日のことは、鮮明に思い出せる。
小太鼓希望者で音楽室はすし詰め状態。
私はかなり緊張してのぞんだ。
いままでたくさん練習したんだから大丈夫。
絶対受かって、運動会で演奏するんだ。
と、自分に言い聞かせていた。
ところが……。
「水戸黄門のテーマ曲の最初のフレーズを叩いてもらいます。」
先生の言葉に頭が真っ白になった。
みとこうもん???どんな曲???
私は当時水戸黄門を見たことがなかった。
先生がお手本を示す。
初めて聴くリズムだった。
オーディションはぶっつけ本番。
鼓笛隊が毎年運動会で演奏する曲なら、指にタコができるくらい練習していてほぼ完璧だったけど、初めて聴くリズムを練習せずに叩けるだろうか……。私は不安に襲われた。
オーディションが始まり、1組からひとりずつ順に1フレーズを叩いていく。
私は、5組だったので出番はまだまだ先だった。
今のうちにリズムを頭に叩き込もう。
私はみんなの演奏を聴いて覚えようとした。
ただ、水戸黄門の曲を知らなかった子は私だけじゃなかったらしい。
いろいろなリズムを聴かされて、私は混乱した。
先生のお手本、どんなだったっけ……。
自分の番は手が震えた。
どんなふうに叩いたかは覚えていない。
「今から呼ばれた人が合格なので、音楽室に残ってください。」
私の名前は呼ばれなかった。
落ちた人はたくさんいて、私は友達と
「落ちちゃったね〜」
と話しながら音楽室をあとにした。
ただ、私といつも一緒に帰っていた友達は合格して音楽室に残っていたので、私はひとり、教室でその子を待つことになった。
そのときは落ちたショックをまだ受け入れられない自分がいて、とにかく合格した友達には、すごいね、よかったねって明るく言わなきゃと、そんなことをぐるぐる考えていた。そんな複雑な気もちでいたとき、男子がひとり教室に入ってきた。
そして私を見て言った。
「へえ〜。落ちたんだ。」
悔しかった。
情けなかった。
誰よりも必死で家で練習したのに落ちた自分が、すごく恥ずかしかった。
なんと答えたかは覚えてないけど、絶対泣かないと思ったのは覚えてる。
初めて本気で手に入れたいと思った夢は、あっけなく散ったのだ。
家に帰ると、ボロボロになった漫画が2冊、目に入った。
1冊目は漫画がぺしゃんこになるまで叩いたので、もう一冊持ってきて、またガムテープでぐるぐる巻きにしたのだ。
昨日までは帰ってきたらすぐ、意気揚々とバチを持ち、叩きまくっていた。
だけどもう、練習する意味がなくなった……。
私はお母さんが帰ってくるのを暗い気もちで待った。
いつも小太鼓の練習をしていたらあっという間にお母さんが帰る時間になっていたのに、今日はやけに長い。
お母さんが帰ってきてやっと、私はわんわん泣いた。
あれがはじめて私が味わった挫折だった。
選ばれていたら誰よりも真面目に練習したのに。
ずっと憧れて、こんなに練習してきたのに。
毎年運動会で鼓笛隊が演奏する曲だったら、緊張してもスラスラ叩ける自信があったのに。
小太鼓の役になれなかったことを私は何度も思い出しては悔しくなった。
最後のピアノの発表会で失敗したときも
運動会のリレーでバトンを落としたときも
さらにはセンター試験が終わったあとに第一志望の大学を受けることを諦めたときも
そこまでひきずらず、すぐに切り替えられた。
もっと練習すればよかった、もっとちゃんと勉強すればよかったって、少し後悔はしたけど。
だけど、全力を出し切ってダメだった5年生の鼓笛隊への挑戦は、あのときの悔しさをいとも簡単に思い出せるくらい私にとって大きかった。
あの経験が今に生きてる、みたいな美談もないし、苦い思い出のまま私の中に残ってる。
でも、今の私には、あのときの一生懸命さがまぶしい。
あのくらい、夢中になれる目標を私はこの先もてるだろうか。
家族みんなの幸せとか、
娘の成長とか、
それは今の私にとって1番であることは間違いないけども。
もう一度、自分の全てをつぎ込んででも叶えたいことに出会えたら。
そのときは、自分の中にガムテープでぐるぐる固定して、がむしゃらにしがみついていこうと思う。
kon.より