
ミリオン家族の企画かと思ったらガチで一家不在だった
ただいま、と玄関のドアを開けリビングに踏み入れると、家の中に人の気配がないことをなんとなく察する。毎日ここで暮らしているんだ、それぐらい、なんとなくわかるようになってきた。
でももしかしたら、家族の誰かが家のどこかにいるかもしれない、という可能性は捨てきれない。そう例えば、弟が布団の中に潜り込んで息を殺している可能性もあるし、母がトイレの中で眠りこけている可能性だってある。
もしかして、かくれんぼ始まってる...?
-
かつてテレ東で「ココリコミリオン家族」という番組が放送されていた。家族という番組名が指すとおり、さまざまな企画に"家族で"挑戦し、"100万円"獲得を目指すという、今ではあまり見なくなった視聴者参加型番組だった。
その中でもメインコーナーだったのが、「かくれんぼバトル」。挑戦者となる一家は、自宅のあらゆる所に隠れて、芸能人たちから30分間見つけられないように息を潜める、という企画。成功すれば100万円獲得。
当時私はこの番組が大好きで、よく見ていた記憶がある。自分の家の中を舞台にかくれんぼなんて、なんて夢があるんだ!と子ども心ながらにワクワクして毎回視聴していた。
そういえば最近、新しいカギというフジテレビの番組で、学校かくれんぼなるものをやっていたのを見かけて、この番組のことを思い出した。
ミリオン家族は、通常放送回では主に自宅が舞台となるが、特番などのスペシャル回では無人島などを舞台に大掛かりなかくれんぼをしていた。無人島ひとつがまるまるかくれんぼのステージになる。これも子どものハートをガッチリと掴んでいたと思う。
-
今、この家にいるのは自分だけのハズ。駐車場には車もないし、置き手紙もない。無論、家が軋む音も衣擦れの音も聞こえない。
ネットオカルトで有名な話に、「目を瞑って家の間取りを思い浮かべ、順に部屋を覗いてまわる。その部屋に誰かがいたら、実際その部屋には幽霊がいる」なんて、何にインスピレーションを受けたのかわからない馬鹿馬鹿しいミニゲームみたいなのがあったが、あながち馬鹿馬鹿しいとも言えないな、と思ってみたりもする。こんな何も無い郊外のニュータウンの一軒家に、幽霊が出るような謂れもない。
誰もいない。本当だろうか。2階で誰か寝てんじゃないのか。別に誰かが寝ててもいいんだけど、いるならいるで存在を認知しておきたい。
西日が差し込み、リビングは不気味に赤い。ブラインドが映す規則的な影が、心拍数を少し上げた。
-
階段をゆっくり上り、2階に足をかけたというところで、両親の寝室の戸が少し開いていることに気づいた。あれ、両親のどちらかが寝ているのかな。表に車なかったけどな。
そういえば有名なネットオカルトにこんな話があった。誰もいないはずの自宅、2階から母の声が聞こえ階段を上る。奥にある部屋から声は聞こえているようだ。近づいていくと、今度は1階から母の「ただいまー」という声が聞こえた。なんだ今帰ってきたのか、階段を降りようとしたとき、奥にある部屋からわずかに白い顔が見えた、という話。
いるかもしれないんだよな。家族に擬態した何かが。そう思うと自分の家だろうが何だろうが、完全に安心出来る場所なんてない。「実家のような安心感」には、実家とは思えないような緊張感も孕んでいる。
-
まあ結局誰もいなくて、30分後くらいに家族の誰かが帰ってくるんだよな。天井裏も地下スペースもないこの家に隠れられるようなスペースなんかないもん。