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本の感想「私を離さないで」

久しぶりに小説を読んだ。小説はあまり読まないが「人間としての豊かさ」を高める助けになればと思い、あまりにも有名なカズオ・イシグロの「私を離さないで」を読んでみた。

本を読んで私は流れる時間が遅く感じた。それには色々な要因があるだろう。カズオ・イシグロが描く世界観、冗長だと思ってしまうほどに長い本題に入る前の話、それぞれの感情や性格が詳細に描かれた生徒たちの描写。どれも私を小説の中の世界観に引き込んでくれた。本を読んだ時のことを振り返ると、大きな木と緑がいっぱいに広がる広野、そこで見られてもいない誰かから盗み聞きをされないようにコソコソと、ニヤニヤと話をする少年や少女の情景を思い出す。「これこそが小説の良さか」と私は初めて感じた。読む前は起承転結がしっかりとあって今の社会問題などに風刺的に切り掛かるものを期待していた。しかしそれは半分正解で半分不正解であった。気持ちがふわふわとし、はっきりとしない。それでもって考えさせられる部分がある。これは読んだ人にしかわからない感情だろう。

少し内容的な話もすることにする。話は介護人としての仕事をするキャシーは提供者と呼ばれる人々を世話している。彼女の幼い頃の記憶は幸せなものであった。しかしそれと同時に違和感を抱くことになる。作者が描いた世界の中でキャシーや彼女の友達が抱く気持ちはどこか切ない。彼女が生きる世界の中で感じられる「違和感」とは一体何なのか。読み進めていくほどに世界観に引き込まれていく非常に面白い作品であった。

私はこの小説を読み終えて知った「違和感」の正体に衝撃を受けた。違和感を抱く世界の中でキャシーやその友達が感じるやるせない気持ちや、将来が決まっている絶望感は実際に彼らの口からは語られないがヒシヒシと感じることができる。

世界が良くなっていく過程で生じる「いらないモノ」や「隠したい事実」はいつでも存在する。それとどう向き合っていくのかを考えさせられる内容であった。また、今を生きる多くの人は「自分で自分の未来を創っていくことができる」という幸せをしっかりと享受していく感性が大事なんだと感じるようになった。

皆もぜひ読んでみてほしい。


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