体幹の動きを阻害してしまうもの
野球指導者の方に「体幹の柔軟性」についてお話させてもらう機会があったのでその内容をnoteにまとめました
概要のみ広く浅く伝えています
「体幹の動きには何が関係しているのか」考えるきっかけになれば幸いです
※エビデンスを重視した内容ではなく、自分の今までの経験を踏まえた内容になっているのでご了承ください
【①体幹自体が使えないタイプ】
前屈や後屈など体幹を動かすトレーニングをした時に体幹に制限なく楽に動ける選手と体幹が板のように全然動かく、動かそうとしてもきつそうな選手がいます
もともと柔軟性が高いと言う選手もいれば、何かしらトレーニングなどをして柔らかくなったという選手がいると思いますが、実際は人間はみんなもともと柔らかい体幹を持っています
それがなんらかの問題(発達過程のエラーやオーバーユース、偏って運動学習による姿勢制御の変化など 詳しい話は後述します)で硬くなってしまいます
何らかのトレーニングをして柔らかくなった、と表現する選手がいるとすればそれは硬くなっていたのが元に戻ったと捉えてもいいと思います
もちろんこの硬さが違う両者がピッチングをした場合、いくら下半身を機能的に使えたとしても胸のしなりや上肢の動きなどに差が出ます
【②体幹が動作の中で使えないタイプ】
また単純な動きのトレーニングではしっかりと体幹が動くのにピッチングなど特定の動作になると体幹が全然動かない選手もいます
これは体幹の柔軟性が下半身の使い方や上肢の位置など外部の影響により体幹が動かない場合と運動学習のエラー(使い方が間違っている)の場合があります
それぞれの原因について載せていきます
【①体幹自体が硬いタイプの原因】
『体幹自体が生まれつき硬い』ということはほとんどなく、本来は自由に動ける(使える)はずです
しかし、それがなんらかの理由で使えなくなってしまう人が多くいます
ただし先天的な機能障害(側弯、先股脱、胃下垂など)や外傷(骨折、交通事故後の頚椎捻挫など)がある場合は別となります
この問題がある場合はがっちりとした治療家に相談してみるといいかもしれません
がっちりとした治療家は病院のことを指す場合もあれば保険適応外で開業している治療家を指す場合もあります 状況に応じて使い分けた方がいいです
上記の問題がない場合はコンディショニングを整えることを最初に行うのがベターです
コンディショニング不良を起こす原因は以下のようなものがあります
・内臓機能低下
内臓は腹膜という膜の包まれています 腹膜は皮膚や筋膜、体幹筋や背骨との連結があるため、内臓機能は体幹の柔軟性や筋力発揮に影響を与えます
内臓の状態が悪い(胃が張っている、ずっとお腹を下しているなど)とパフォーマンスは上がらないことはイメージしやすいと思います
本来は各臓器の機能など評価して治療を行うのですが、専門的な話になってしまうので割愛します
(興味があればオステオパシーや東洋医学など参考にしてください)
これらの問題は食事改善だけでも変わることを多く経験するので、ここでは食事指導の例を載せておきます
・乳糖不耐について
牛乳やプロテインでお腹を下す選手です プロテインをカゼイン除去されているタイプに変更してもらうこともあります
質の悪い糖質、酸化した油や添加物過多について 筋肉がやけに硬い選手や若いのに肌の質が悪い選手、ちょっと筋肉を押しただけでも痛がる選手に多いです
打撲や肉離れをよく起こす傾向にあります スナック菓子やアイス、ジュースなど毎日食べ飲みしている選手はそれらを減らすことで改善することも多いです
また感覚が良くなったり、野球だけでなく勉強や日常生活でも集中力が上がる選手もいます
最近のいわゆるキレやすい子どもやメンタル激弱の女子、野球だとイップスなどストレス耐性が低い選手は糖質過多のことが多いです
このへんは自分の説明よりも詳しく書いている本などがあるので興味があればそれらを参考にしてください
分子栄養学の話などがわかりやすいかもしれません
なお自分が学生に指導する場合は以下のような順番で行うことが多いです
①身体に合わない食べ物を把握する
(アレルギーや乳糖不耐 最近の子どもはかなり多いので注意が必要です)
②余計なものを減らす
(スナック菓子、ジュース、アイスなど)
各家庭の考えもあるのでいきなり完全にカットするのは難しいと思うので代替案を提示します
ジュース⇒無糖炭酸水+レモン+はちみつ、水+リンゴ酢
スナック菓子⇒ツナやハムのサンドイッチ、果物、無糖ナッツ類に塩をかける
出来るだけ食品の自然なおいしさに気づける提案にします
自然なおいしさを感じているうちに余分なものが入っていることに対する違和感を感じるようになります
某ハンバーガー店の酸化して塩分たっぷりのポテトよりも自宅であげたポテトの方がおいしいことに気づけると勝手にそういったものを選択するようになります
将来的には自分で食に関して管理できるようになって欲しいのですが、そのためには正常な味覚を発達させる必要があるためです
また中学生、高校生以上になれば原材料を自分でみてもらうこともします
これは食に対して知識や関心を持ってもらうためです
その上で必要なものを食べるよりも先に余計なものを食べないことが優先順位が上となります
③なんでもしっかりと食べる
一度に量を食べる必要はないです
スポーツをしている選手は競技や活動時間にもよりますがエネルギーが足りてないことも多いです
小さいおにぎり+副菜を運動後など間食として取り入れるなどトレーニングと栄養がセットである意識つけてもらいます
特に体重が減る選手は要注意です
中学生以上の場合は
④炭水化物、タンパク質の摂取タイミングと量の把握
⑤プロテインなどサプリメントの話
などもします
このへんは知識としてつけてもらいます
経済的な負担や各家庭の考えがあるため強要はしないように配慮しています
あと親への指導になりますが、できるだけ塩は精製塩ではなく天然塩(ミネラルがカットされていないもの)を推奨しています
むしろこのへんは子供よりも大人の方が大切かもしれません
このへんの指導をする時は親の理解が必要ですが、実際に塩を持って行って舐めてもらうことが多いです
単純に精製塩よりも天然塩の方がおいしいですし、料理にも使いやすいのでおすすめです
食事が変わるだけでも体幹の筋力発揮、柔軟性、筋肉の状態などに大きく改善する場合があります
逆にいくらストレッチやトレーニングを行っても食事が良くないとパフォーマンスが上がってこない場合もあるので大切にしています
・ストレス
心のストレス(脳疲労の持続や情動反応)は自律神経に影響を与えます
胸骨、胸椎、肋骨周囲に制限が出来るので、代償的にその周囲筋へ過剰に働き、首、肩周りの動きが悪くなります
また呼吸補助筋が優位になり、呼吸が浅くなったり、胸郭の動きも小さくなります
大きい声が出すのが苦手な選手や引っ込み思案でどこか自信なさげな選手に多いです
このタイプに過度なストレッチやマッサージをしてしまうと余計に動けなくなることもあるので注意が必要です
軽い呼吸のトレーニングなどで胸郭の動きを少しずつ出していくことで首、肩周囲の制限もとれていきます
また胸部の動きが悪くなると睡眠の質も下がり、リカバリーにも影響します
寝起きがすっきりしなかったり、朝に起きれない選手もいます
その場合は頸部や胸郭がリラックスできるように枕やタオルをセットしてから寝ると改善することがあります
最近は前述した食事などの影響による内臓ストレスと心のストレスを併せ持つ選手が多くいます
アライメント(姿勢)の特徴としては下部胸椎がフラット化(平坦化)します
それより上部の胸椎はそのバランスをとるために屈曲します
いわゆる猫背ですね
さらにそのバランスをとるために下部頚椎は過伸展します
顎があがっている姿勢です
集合写真とかとる時に顎があがる選手なんかはその可能性が高いです
このタイプに『猫背にならないようにしっかり伸ばして!』みたいなことを言っても改善しないことが多いです
(一時的に循環を改善させるために動かす目的ならいいですが)
順番としては下部胸椎を丸めることが優先になります
なおこのタイプは下半身で発生させた力が下部胸椎で途切れてしまうので胸が動かず、い わゆる上半身投げ、手投げになってしまうことが多いです
https://nojiri-ch.com/sd/doctor/session3
簡単ではありますが、spine dynamics療法のHPにこれらの情報が載っています
興味あればご一読ください
・急性炎症(怪我や病気など)
痛みがあると体幹筋の出力が抑制されたり、関節の動きも悪くなります
怪我や病気など急性炎症がある時期は無理しない方がいいです
とは言ってもプロ選手のように急性炎症があっても試合に出ないといけない場合もあると思います
その場合は患部外の動きをよくして、患部にかかる負担を減らす、テーピング固定する、投薬などで炎症管理をして、ある程度動いても痛みが出ない状態を作ります
それだけでパフォーマンスは発揮しやすくなります
個人的には特別な理由がない限りは学生には無理をさせません
・筋疲労、循環障害による疼痛
腰を反ったら痛いがマッサージや鍼をすると楽に動ける、などこれにあたります
筋の循環障害は疼痛や可動域制限、筋力低下を起こします
このタイプは根本的な考え方としては一部の筋に負担をかけるような使い方をしているので身体の使い方を改善していく必要があります
ただコンディショニングとしてストレッチなマッサージなども併用して行った方が効率がいいです
セルフトレーニングとして導入してもらいましょう
【②体幹が動作の中で使えないタイプ】
体幹自体の柔軟性やパワーがあってもピッチングなど特定の動作になる使えない選手もいます
その場合は以下のようなことを考えます
・運動学習のエラー
間違った使い方を覚えてしまっていることです
例えば体幹を側屈させる時であれば、下肢の体重をどちらの足にかけるかで側屈の動きは変わります
どちらが正解、というわけではなく目的、その動作によって自然と変わります
これが特定の動きのパターンしかできなくなって必要な動きが出来ないことを運動学習のエラーと言います
どこの筋肉が働くか(姿勢制御含むモーターコントロール)、
どこの関節がどの程度動くか(深部覚や運動覚)、
どのタイミングで動くか(運動連鎖)など含まれます
この結果がフォーム(型)ですね
フォーム(型)にはめることを嫌う指導者もいますが、フォーム(型)を学ぶことは特定の使い方を覚える上では有効です
しかし、フォーム(型)にはめても表面的な動きを真似しているだけで本質が伴わないと間違った動きを覚えてしまうこともあります
よくスポーツ選手は一流選手の動きの真似をしろ、と言いますが全員がそれが出来れば苦労はしません
なぜ間違った使い方になってしまうか
その原因はそれぞれの身体感覚が違うためです
身体感覚は発達や環境、心理による姿勢変化、間違った情報を信じてしまう(認知バイアス)など様々な理由により変化します
1つ1つを説明すると長くなってしまいますので割愛しますが、指導者及び選手はなんでその動きが出来ないかの理由をしっかりと考えるようにしましょう
ここに対するトレーニングは『動き方を覚えること』が該当します
ターゲットは筋肉ではなく、脳です
なお自分の提供するトレーニングの大部分はこれにあたります
・他関節や環境が体幹に与える影響
体幹の動きは他関節(例えば手指など末端の使い方)や全身の使い方(立ち方、足の使い方)によっても大きく変わります
末端の影響を先日みた選手を例に出します
胸郭のしなりが出しにくい
→肩甲骨後傾がしにくい(前傾傾向がある)
→トップの位置で腕を立てれない
→腕が外から遠回りするように投げてしまう
→シュート回転+バックスピンが少ない、いわゆる垂れる球になっていた
この選手に対して胸郭や肩甲骨のストレッチやフォーム指導をしても改善はほとんどありませんでした
(何もやらないよりはいいですし、これだけである程度改善する選手もいるので一応指導はしますが)
この選手の場合はボールを握る時に母指CM関節(親指の付け根)を内転させすぎていたことが肩甲骨、及び胸郭の動きを制約している原因でした
母指CM関節内転
→手関節掌屈
→肘関節屈曲
→上腕骨頭前方シフト
→肩甲骨挙上・前傾
→僧帽筋や菱形筋など肩甲骨内側の筋が伸張位になる
→肩甲骨が内転しにくい
→胸が反りにくい
という運動連鎖パターンです
握りの調整をすると肩甲骨の動きや胸郭のしなりを出す感覚がわかり、ボールの回転軸や回転数も増えました
このへんの繋がりの見方は書籍ではあまりないですが、がっちりした治療家だとみることができます
(しいていえば運動連鎖やアナトミートレインや経絡が近い内容が書いてます 実際は書籍に書いてあるよりも複雑なので情報を鵜呑みにしない方がいいです むしろ自分の身体を通じて見つけていった方がずっといいです)
また全身と体幹の関係でいえば、重心位置、足圧中心(どこに体重をかけているか)が体幹の動きに大きく影響します
前屈でも足裏全体に均一に体重をかけたまま行う時と踵に体重をかけて前屈する時では体幹の動く場所、筋活動など大きく変わります
https://twitter.com/hosogaikouji1/status/1229601493520715776?s=20
https://twitter.com/hosogaikouji1/status/1229238991595220992?s=20
これも1つのパターンしかできなくなってしまうと体幹の硬さに繋がってしまいます
野球のように特定の動きの反復動作が多い競技では間違った1つの使い方を続けると疲労骨折や靭帯損傷などの怪我にも繋がるリスクがあります
色んな動きの学習をしておくことがおすすめです
https://twitter.com/hosogaikouji1/status/1158521879163838466?s=20
https://twitter.com/fumiaki_slh/status/1171394899410743296?s=20
https://twitter.com/koutopo/status/1186562594649149442?s=20
前屈など屈曲系の動きは股関節の筋肉の影響を強く受けます
以下のような動きで股関節の筋肉を使ってから体幹を動かすと一気に動きが改善します
https://twitter.com/hosogaikouji1/status/1219818748242120704?s=20
https://twitter.com/hosogaikouji1/status/1219821252614877187?s=20
【おまけ 体幹の動きを作っていくために】
・幼児期
身体に色んな刺激を与える
体幹の筋力のベースは噛んだり、しゃぶったり、口の影響が大きい
→柔らかくて食べやすい物だけ与えない
バランス、柔軟性のベースは姿勢制御システムが関与する
前庭器官への刺激を与える
→滑り台とか転がったりとかアスレチック系とかやって遊ぶ
下半身と体幹の関係は股関節を使って発達してきたかが大切
ハイハイしていたか、何かに掴まないで立ったり、転がったりできるか
→歩行器使ったりしない たくさん転んだり、失敗を繰り返していく中で身体を発達させていく
・児童期
ある程度正常な発達段階を経ている場合は体幹の柔軟性は持っている
この時期は色んな動き、使い方ができるようにするための小脳課題を増やしていく
フォーム(型)を学ぶことを行ってもいいが、強制せずに色んなフォーム(型)ができた方がいい
→色んな身体の使い方を覚えてもらう
・中高生
この時期になると間違った使い方が習慣になっていることが多い
ある程度正しい使い方を覚えなおすことも必要になる
→動きの基礎を覚える
運動学習の個人差があるのですぐに動きが改善しないこともあるので、セルフケアは継続してもらう
高校生になるとある程度自分たち同士で治療もできるように覚えてもらう
目的は身体に興味を持ってもらうためと自己管理する意識を持ってもらうため
自分は肩甲骨、体幹周囲のトリガーポイント(肩甲骨周囲筋、腰方形筋、大腰筋、脊柱起立筋、殿筋など)教えている
・大学生、社会人
運動連鎖の理解と現時点の自分のくせを理解してもらう
どこで必要以上に頑張ってしまうのか、どこが使えていないのか、その習慣を改善するトレーニングは?
それが野球の動きにどう繋がるのか
最初は完全に教えているが、そのうち自分で考えれるようになる
本来は高校生もこうやりたいが、ある程度賢い選手(学力ではなく考える習慣がある選手)じゃないと難しい
おそらく高校までは指導者から言われる練習を行ったり、自分でネットで調べた練習をそのまま深く考えずにやっている(〇〇選手がやっているから)ことが多いことが関係しているかもしれない
大学生だと自分でやらないといけない環境になるのでそこから深く学ぶ姿勢が出てくる選手が増えてくる印象