ザウアークラウトを「推し活」する(手作りにチャレンジするの巻その2)
自分で勝手にスタートさせた「ザウアークラウト押し活プロジェクト」。
下拵えのすんだずっしりぎっしりキャベツの詰まった3リットル入りのポットを抱えて家に帰ったあとはA先生の教えに従って発酵させてやらねばならない。
◎第二のポイントは温度管理
メモ帳を取り出して確かめる。発酵をスタートさせる第二のポイントは温度管理だ。20度から22度の温度環境で3ー5日間置くとある。ドイツの住宅にはセントラルヒーティングがあるので、その横に置けばがてっとりばやい。ただ我が家は日中は家を空けているのでずっと22度を保つのは暖房費がどうももったいない。冬場のパンや納豆作りの際にはいつもお世話になる湯たんぽ2個をポットの両脇に配置して今回も活躍してもらうことにしよう。
その前にポットを開けてキャベツの上に付属の重石をのせる。水分がこの石より3センチほど上にいないとキャベツが空気に触れて腐りはじめる危険性がある。万が一、水分量が足りない場合は湯冷ましの1.5%の塩水(1リットルあたり15グラムの塩)を足してやる。
◎最後のポイントは空気に極力触れさせないこと
さあ、お次は最後のポイントだ。漬け込んだものを極力空気に触れさせないことが大事。塩水に隠れているので腐る可能性はすでに少ない。ただ蓋をすることで雑菌を防ぐのと発酵してできたガスを逃さず閉じ込めておくことで発酵を促進させることができる。専用ポットには蓋に空気穴がついており、蓋を載せる部分とポットの間に溝がある。ふたをしてから溝に水を流し込み、空気穴を閉じれば完了する。
さてこれから3ー4日間はどんなに誘惑にかられても決して蓋をあけてはいけない!!(先生がこの点を余りに強調するのでかえって開けたくなってもう鶴の恩返し状態でした)乳酸菌にしっかり働いてもらうためには、この時点で開けるのは堅ーく禁じられている。
そうやってスタートの時期をのりこえると、こんどは涼しい(5ー15℃)地下室に移動させる。なんでも昔ながらの土蔵だと理想的な湿度が保てるらしいが、コンクリート住宅の我が家にそんなすばらしいものはない。それに地下室よりも手元に置いておきたくて台所の片隅で過ごしてもらうことにした。
◎ザウアークラウト作りポイントのおさらい
さあて、ちょっとここでポイントのおさらいといこう。ザウアークラウトづくり成功を導くカギ3点
1。塩分量(キャベツ重量の0.5-0.8%)
2。温度管理(20-22℃で3日間、それから10-15℃で5ー6週間)
3。空気に極力触れさせない。
こうやって書いていると自力で挑戦したときになぜ失敗したのかがよくわかる。最初は場所をとって邪魔になるからという理由で冷蔵庫に収納してしまった。これでは発酵なんぞするわけない。2回目は水分が足りず、塩水をかぶっていなかった上の部分が空気に触れて雑菌が繁殖したのだ。いかりや長介さんでなくったって「だめだ、こりゃ」といってやりたくなる。そして酵す仕事は科学なのだとあらためて理解する。
◎ザウアークラウトは束縛からの解放
できあがるまでの5ー6週間は溝に水があるかの確認だけで後はひたすら自然の力に委ねるのみ。待ち遠しくってそれでいて豊かな時間がすぎていく。先生は「ザウアークラウトづくりは何ものにも束縛されないという解放感をくれます」と表現していた。
フランスやイタリアと違ってドイツでとれる野菜の種類も時期も限られており、一昔前までは収穫物を余すことなく、捨てることなく保存処理し、冬の蓄えとするのが当たり前だった。ザウアークラウトの樽や瓶がずらっと貯蔵庫に並んだ姿は、さぞ心強かったことだろう。
私もポットを見つめながらキャベツ2個分くらいの自由を手に入れた気分。スーパーが閉まってようが、ザウアーウラウトがあればしばらくは生き延びられるさ、なんてくらいの。たったそれくらいのこと、でも心は満ち足りている。
◎手塩にかけたザウアークラウトの愛しさよ
そして待って待って4週間。ちょっとフライング気味だが味見といこうか・・・。と、ここでまた先生の注意事項を思い出す。「ポットは開ける時は必要な分量をササっととったらまたすぐ蓋をして極力空気に触れないように!」。
おそるおそる重石をどけてお皿にとる。すばやくまたふたをしめろ!さあ、試食。漬かりがまだ浅いような気がするけど、その分サラダ感覚でぱくぱく食べられる。クミンシードがアクセントになっていて「おいしーい」と思わず声が出た。
親バカのたわ言のように聞こえるかもしれないが、手塩にかけたザウアークラウトはなんとも愛おしい。人の評価なんてどうでもいい。親バカをさらに炸裂させると「これまでの人生で食べたザウアークラウトの中で一番美味しい」のだ。
はじめての(成功した)ザウアークラウトづくり。
試行錯誤しながら一人で地道に挑戦するのもいいけどA先生に教えてもらって本当によかった。二人でキャベツを飛び散らせながらの悪戦苦闘は楽しく、ドンドンとマッシャーを使っての重労働さえ交代で四方山話をしながらやるとなんとなくクリアできた。
そして何よりも先生のザウアークラウトづくりへの闘志に私はやられた。環境問題についても熱く語り、「ザウアークラウトづくりをかつてのように普及させるのが夢。いくつになろうが夢を持ち続けたっていいでしょ」と恥ずかしそうにおっしゃっていた先生。これから私がザウアークラウトを作るときはいつもお肌ツヤツヤ、気持ちもイキイキのA先生と作った時のことを思い出すだろう。
そのお弟子さんとして私はここで声を高らかにして言わせてもらいたい。
「ザウアークラウト、めちゃ推しです」