Pflanzenjäger

ミュンヘン在住の庭師(マイスター)です。植物にまつわる物語と植物を追いかけています。 instagram: plants_and_life18

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最近の記事

Sさんにもらった削り花

「はい、これプレゼント」 とSさんから口をキッチンペーパーで覆いセロテープでとめた紙コップを手渡された。 軽いから飲み物ではない。 なにかしらん、とペーパーをバリッと破いて中を覗くと、木くずと木を削って作ったちっちゃな花二輪が入っていた。 「そこにあるストーブの薪木で作ったの。それにヨーロッパハイマツのオイルをふりかけたただけ。水をやらなくていいから手入れは楽よ」と茶目っ気たっぷりに説明してくれる。 鼻を近づけるとふわんと山の香りがする。ヨーロッパハイマツのオイルには

    • 花咲かばあちゃんのいる小さな駅で

      南ドイツにあるベネディクト派修道院の敷地内に設けられた列車の駅。正式には駅未満の「停車場」らしいのですが、そこはおおらかに駅としておきましょうか。   1898年に開業して以来、この駅から数多くの修道僧が布教のためにアフリカへ、アジアへと各地に旅立っていきました。彼らの中には病を得てまた戻ってきた者もいれば、また迫害されて遠く離れたその地で一生を終える者もいました。 現在の駅から少し離れたところに立っているトタン板で作られた小屋は開業当初の駅舎です。そして今は写真家のフォト

      • ドイツで作る笹団子とパスカルくん

        ブロンドのサラサラヘア、ハープを弾くのが趣味というパスカルくんは漫画の王子様みたいな17歳。上級専門学校の一年生で、職業研修の一環としてウチの職場にやってきたのがきっかけで知り合った。 ドイツの上級専門学校は日本でいう高校一年生を終了した時点で入学資格が得られ、社会福祉、経営管理、芸術などなどの専門に分かれた実務を主眼とした教育が行われる。一年目は職業研修が主で、色んな会社で研修を重ねて自分の適正を見極めたり、社会経験を積むことができる。   パスカルくんの専攻は「環境・自

        • 西洋わさびのきいたミュンヒナーシュニッツエル

          (アシスタント以下ア) 本日の37分間クッキング、ドイツ家庭料理研究家、独逸(どいつ)善晴先生をお招きしています。 先生どうぞよろしくお願いします。ところで先生、今日の料理と関係なくて申し訳ありませんが、料理研究家の土井善晴先生と名前が似ていますけど、ご関係は?   (先生)皆さんどうもこんにちわ。ドイツ語やったらGuten Tag,南の方でしたらGrüss GottかServus。 なんでも聞いてください。 名前が微妙に似てますし、郷土も同じ大阪ですけれど、土井先生とはなん

          「ドイツ一辛い町」でクレン祭りを体験

          ドイツ南部にあるバイヤースドルフはバイエルン州一いや、         「ドイツで一番辛い町」 を自認しています。 かつてクレン(=ホースラディッシュ、西洋わさび)の生産が盛んで、今なおクレン加工商品で市場シェアナンバーワン(32%)の「シャメル(SchameI)社」(1846年創業)の工場がここにあるというのがその論拠。 ここでは毎年9月の第三日曜日、「クレン祭り」(Krenfest)が開かれます。   旧市街の広場にドドンと待ち受けていたのが「クレンの組体操ですか

          「ドイツ一辛い町」でクレン祭りを体験

          農村と都市、人と人とをつないだクレン(西洋わさび)おばちゃん

          映像の主人公のスカーフの女性は、クレンすなわちホースラディッシュとその加工品を売り歩いた「クレンおばちゃん」。それを語る前に、「いや待って、ホースラディッシュって聞いたことがあるけど何だったっけ?」という方のためにおさらいと、それがドイツ南部でクレンと呼ばれるようになったゆえんを説明しましょう。 ◎クレンの由来はチェコ語から  ホースラディッシュとは日本では西洋わさびあるいは山わさびという名前で出回っている香味野菜。アブラナ科トモシリナ属(Armoracia rustic

          農村と都市、人と人とをつないだクレン(西洋わさび)おばちゃん

          「薔薇咲くところ平和あり」ー願いは国境を越えて

          ライン川流域にある人口1万7千人のエルトヴィルは「ラインガウの真珠」と称されるこじんまりとした町。ワインどころとしても有名だけれど、1988年にドイツ・バラ協会から認定を受けたお墨付きの「バラの町」。毎年開かれるバラ祭り、2024年は6月1、2日に開かれると知った。 バラは植物の中ではとかくもてはやされ、愛好者も多い、なんというか、人間にたとえるならばファンの多い美人さん。近寄るといい香りまでしちゃってこちらがドギマギしちゃう。だからなのかアマノジャク気質な私はどうもバラに

          「薔薇咲くところ平和あり」ー願いは国境を越えて

          オーストリアの食を探れ、試食探検隊がいく~3つのナッツが奏でるハーモニー、モーツァルトクーゲル

            A隊員:20代の若手男子。好きなドイツの食べ物はケバブとカリーヴルストとガッツリ系。   B隊長:50代男子。人生の半分近くをドイツで過ごす。こよなくドイツビールを愛している。このごろ食が細くなってきたのを実感する日々。 B隊長:Aくん。新しい指令が届いたぞ。君の苦手な甘いもの系、モーツァルトクーゲルだ。   A隊員:あの激甘お菓子ですね。僕たちはドイツの食を探るのが使命と思ってましたけど、夏休みだからこれまでのご褒美もかねて出張に行ってこいっていうことかな。楽しみです

          オーストリアの食を探れ、試食探検隊がいく~3つのナッツが奏でるハーモニー、モーツァルトクーゲル

          「夜の女王」が大輪の花を咲かせる時

          東経11度34 分、緯度48.35度のこの町で、本来熱帯や砂漠に生きる植物は温度や光を調節した温室で育てられている。人工的に操作された環境下の植物を不自然だといって嫌う人もいる。 それでも温室で「飼いならされた」植物だって野生のリズムを忘れることいない。春も夏も秋も冬も、朝も昼も、そして暗闇に包まれる夜だって、故郷にいるのと同じように自然のサイクルにしたがって生きている。 夜の誰もいない温室でだっていろんなドラマが起きている。そして今夜はサボテンの間で「夜の女王」たちがお

          「夜の女王」が大輪の花を咲かせる時

          フローリストの彼女が退職した訳

          Tさんは今年4月に退職した私の元同僚。庭師ではなく、フローリストの国家資格を持つ彼女は庭師の補助という形で仕事をしていた。清掃や落ち葉を集めるというのが仕事の主体であっても時には花を活けてクリエイティブなこともやらせてもらえたらというのが願いだったのだと思う。 ただ直属の上司は思いやりもなければ人の気持ちには全く配慮しない「氷の女王様」 。ハリポタに出てくるデスイ一タ一と呼んだ同僚もいたっけ。元から生きづらさや心の病を抱えていた彼女はそんな上司との軋轢に耐えかね、新しくやり

          フローリストの彼女が退職した訳

          汝、その名を口にするなかれーあるクジャクサボテン育種家の物語

            太陽の光を浴びながら美しく咲き誇るクジャクサボテンのかつての品種名を知る人はほとんどいない。温室を訪れる人たちはただそのあでやかな色合いに感嘆し、カメラを向けるだけ。 そのクジャクサボテンにはかつて品種名にある人物の名前が冠されていた。その人を世界中の誰もが知っていて、よもや忘れ去られることはない。ただその名を気軽に口にすることができるのは一部の狂信的な信奉者だけ。多くの人はその名を嫌い、一瞬ためらってようやく口にする。その名前にまとわりつく忌まわしい歴史の記憶が心の中

          汝、その名を口にするなかれーあるクジャクサボテン育種家の物語

          盆栽には壮大なロマンが秘められているのだ

           「盆栽1880万円相当盗まれる」(5月12日付朝日新聞)という記事を読んだ。   熊本県御舟町の創業47年目の「雅松園」で33点が盗まれ、時価総額1880万円の被害という。「怒りと落胆で苦しむ生産者の姿があった」という下りを読んで心が痛んだ。金額だけでは表すことのできない、はかりしれない損失を私も感じることができるようになったからかもしれない。 …………………………………………………………………………………………   2年前に埼玉県さいたま市の大宮盆栽村を訪れて盆栽の魅力

          盆栽には壮大なロマンが秘められているのだ

          図書館は出会いの場~植物交換会

           夏日が続くわ、雪が降るわと毎日ジェットコースターに乗っているかのような天気ががようやく落ち着いてきた4月25日から27日にかけての3日間、ミュンヘン市の図書館で植物交換会が開かれました。 ガーデニングシーズンに本格突入するタイミングを狙ったタイムリーな企画です。  交換会は、育てていた植物が増えすぎちゃったり、種をまいたらたくさん芽が出て植えるキャパがなくなっちゃった、という人達が余った植物を図書館に持ち寄り、その代わりに他の人が持ってきた植物を持ち帰ってもいいというも

          図書館は出会いの場~植物交換会

          あなたの愛が重かった・・・アメリカタニワタリノキ嬢の独白

          別れを決意したのは、ほかでもないの、あなたの愛が重かったから。   出会ったのはいつのことだったかしら。あまりに昔のことで確かな日付は覚えていないけれどこう始まったのよね。「ちょっと肩をかしてくれないかな」って。 下に住んでいるってご近所さんのよしみで困っているなら、私で役に立てるのだったら、みたいな軽い気持ちだったのよ。 それから肩だけの関係がどんどん進んで、私の居住空間までグイグイ入ってきたんだったわ。 いえ、嫌ではなかったの。だってセイヨウキヅタのあなたは素敵だったん

          あなたの愛が重かった・・・アメリカタニワタリノキ嬢の独白

          プラハの春〜柳の枝を編んだポムラースカ(鞭)

          イースター(復活祭)のお休みを利用して訪れたプラハ。市内各地でイースターマーケットが開かれていた。屋台にはウサギ、鳥、羊、そしてカラフルな花々をモチーフにしたお菓子や飾りがこれでもかとばかりに並んでいる。 うーーー、たまらん。 卵も手芸品もどれもこれも可愛くって財布のヒモがゆるゆるになりそうになる。いかん、自制しろと理性が訴えるけど、せっかくの旅行じゃん、やっぱりなにかを連れて帰りたいじゃないの、と物色している時に屋台の中にリボンで飾られた枝に目がとまった。 あらこれは

          プラハの春〜柳の枝を編んだポムラースカ(鞭)

          雑草と鬼~早春編~

          3月に入ると植物が一斉に芽吹き始める。見上げれば満開の黄色いセイヨウサンシュシュや白いマグノリア。視線を下に向ければクロッカスやプリムラ。 深呼吸しながら思う。 ああ、春だなあ。  きたるシーズンに向けて宿根草をきり戻したり、雑草を駆除して畑や花壇の準備をしてやらなければならない。 「雑草」なんて書くと、植物愛好者の皆様からは「雑草なんて植物はありませんよ」とお𠮟りを受けてしまうかもしれない。 いや、ごもっとも。 でも、人間が本来育ってほしいと思っている植物の横にど

          雑草と鬼~早春編~