「ドイツ一辛い町」でクレン祭りを体験
ドイツ南部にあるバイヤースドルフはバイエルン州一いや、
「ドイツで一番辛い町」
を自認しています。
かつてクレン(=ホースラディッシュ、西洋わさび)の生産が盛んで、今なおクレン加工商品で市場シェアナンバーワン(32%)の「シャメル(SchameI)社」(1846年創業)の工場がここにあるというのがその論拠。
ここでは毎年9月の第三日曜日、「クレン祭り」(Krenfest)が開かれます。
旧市街の広場にドドンと待ち受けていたのが「クレンの組体操ですか!?」って聞きたくなるようなクレンの王冠。これは地元農家の女性たちの気合いのこもった力作です。
ほえーーと感嘆していると、お出ましになりましたよ、今年度のクレンの女王様が。2年の任期を終えてバトンタッチした前年度の女王様や近隣地域のアスパラガスやビールの女王様たちを従えて、王冠の前で記念写真です。
その次は市会議員さんらと一緒に、ハイ、ポーズ。どこの国でもここぞとばかりに政治家さんが出てくるのは同じですな。そしてそして、クレンおばちゃんに扮した民族衣装をまとった一団も片手にかごをひっさげて登場です。こちらも人々に取り囲まれてしばし王冠の前で撮影タイムです。
さあて、昼食の時間にはちょっと早いけど、お食事タイムといきましょうかね。ねらいを定めていたのは「バイヤースドルフ郷土保存会」の一角。大きなお鍋から湯気が立って、おばちゃんが真っ白なスープをお皿によそうのが遠目に見えていました。私も行列に並んで、順番を待ちましょう。
チェックしていると、盛ったクリームスープの上にさらにすりおろしたクレンをかけてくれます。「ああっ、来たかいがあった」と心の中は小躍り状態。
パン一切れを一緒にもらって、さあ、いただきまーす。
おお、おいしい。こってりと重くなりがちなクリームスープなのに、クレンのおかげで後味がさわやかになるのですね。かけてもらったクレンの辛さに飛び上がるかと思いきや、ツンとくる辛みがアクセントになってこれもうれしいサプライズ。見直しましたよ、西洋わさびくん。
おなかが膨れたところで、まずは会場を一回り。近隣地域の観光案内や公共サービスのスタンドでパンフレットをもらったり、ノミの市でくるみ割りの道具をゲットしてと。そしてぶらぶら歩いていると角の店らしきところに行列ができているのではありませんか。
おっ。ショーウィンドウ越しにのぞくと、窓際にはクレンおばちゃんたちの昔の写真や、その歴史を懐かしんで作られた詩が貼られている。中を覗くとパン屋さん風情で女性二人が焼き菓子らしいものを売っています。
中に入ると店内は一昔前の調度品や商品をディスプレイに使っていて、ノスタルジーであふれています。どうやらこちらは地元の有志女性がお祭り用に特別にラードで揚げたお菓子を作って売っているようです。
四角い揚げパンを買いました。ほんのり温かくて、甘さが控えめでちょうどいいのです。他の場所でも出来立ての揚げ菓子を食べたことはあるけれど、今のところこれはナンバーワン。
大満足したところで、忘れちゃならない、クレン第二ラウンドだよ、レッツゴー。
ちゃあんと目をつけていたのです。先ほどスープを食べた郷土保存会で、クレンを練り込んだバターを塗ってマスの切り身(おそらく塩漬け?)を載っけたパンがあったのを。
楽しみ楽しみランランラン♪、
あれ、ないよ!!!!!売り切れてるーーー。ガーン、ショボン。
ああ、先に買ってスープと一緒に味わえば良かった。なぜすぐに買わなかったんだ。きっとものすごく美味しいから大人気なのに違いない。
自分を呪いながらとぼとぼ歩いていると、もちろん他にもあるのですよ。サワークリームとベーコンとクレンをのせたパンをオーブンから取り出しているパン屋のお兄さんも見ました。
でもね、取り逃した魚が大きすぎ(るような気がし)てどうも別のパンを買う気にはなれない。酸味の効いた黒パンにはクレンを練りこんだバターが合わないわけがないと踏んだんだもの。
ええい、ならば並んでいるディップを片っ端から試食してやろうじゃないですか。
シャメル社と同様に瓶詰の加工品を扱っているルッツ社のテーブルで、クレンと辛子のミックスをいただく。冷たい辛さとホットな辛さの競合ですね。悪くはないけど、どちらの辛さも中途半端な気が・・・。
次にスグリとクレンという組み合わせのジャムを見つけました。
おっ!期待をふくらませたのはその前にターフェルシュピッツにクレンのクリームソースをかけて、横にコケモモジャムの付けあわせというお皿をみたから。
ならばベリー系のジャムとクレンは合うはず・・・と思いきや、
ん、ちょっと違う。甘いと辛いがタッグを組まずにそっぽを向いちゃった感じ。
もちろん味覚はとっても主観的なもの。きっと私と違う意見の人もいるでしょうし、例えば酸味のある別の果物と合わせればいけるのかもしれません。
あれやこれや物色してる内にまたまたクレンおばちゃんの一団に行きあいました。おばちゃんたちは気軽に道行く人に声をかけたり、記念写真を一緒にとっています。そういう光景を見ていると、きれいなクレンの女王様も若さがはじけてていいけれど、クレンの伝道者としては人生の酸いも甘いもかみ分けたようなおばちゃんのどっしりした貫禄が説得力があっていい気がしてくるんですよね。
私がかごの中の写真を撮り終えると、「どう?クレンの蒸留酒を試してみる?」と聞いてくれました。「ちょっとで結構なのでぜひ!」と即答。一緒に居合わせたご夫婦と乾杯を交わしてゴクリ。
ワタクシお酒についてコメントできるような経験値も舌も持ち合わせていませんが、これはスッキリしていて飲みやすい。ツンとする辛みもアルコールに溶け込んでいるような気がします。胃がもたれるしつこい料理の後にくいっといくといいんじゃないでしょうか。
で、最後はデザートです。アイス屋さんで見つけちゃいました。クレンのアイスクリーム。この一玉にかけるぜ、失敗しても他の味で舌をごまかさんぞという意気込みで、挑みました。
で、これが良かった。
すりおろしたクレンの歯触りも気にならず、コクの中に涼やかな辛み。
これまでキワモノアイス(白ソーセージ、ビールなどのバイエルン名物を盛り込んだアイス)を幾つか経験してきましたが、このクレンアイスは定番に加えても大丈夫。太鼓判を押しますよ、ほれポン!!
乳製品とクレンは合う、というのが結論です。
以上バイヤースドルフからお伝えしました。
あっ、忘れてました、お土産は農家の直売所で生のクレンを購入しました。
どうしても家で試したい一品があったのです。そのお話は次のnoteで。