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ドイツ植物界の”今年の顔”をご紹介

注:バナナのたたき売り、もしくは昔なつかし染之助・染太郎のようなハイテンションで書いております

えー皆様、新春の喜び心より申し上げます。2022年のなんともめでたい幕開けと相成りました。日本の今年の顔はもちろん十二支の虎、はて、ではドイツはなんだろうかいなと考えておりましたら、ドイツの自然保護団体やらがあれやこれやと”今年の顔”を選んでいるのにハタ、と思い至った次第でございます。

そのリストを眺めまするに植物界だけに絞ってもそのカテゴリの多さに感心することしきり。選ばれた顔ぶれも「いつもお世話になっておりますぅ」と頭を下げてしまいそうなお馴染みさんもいれば「あんた誰よ?」まで誠に様々でございます。

選ばれし者、全員揃い踏みとはいきませぬが、よりすぐりの9人をご紹介させていただきましょう。ご笑読くだすればありがたき幸せにございます。

さておめでたき1番手に控えまするは

今年のキノコ"ベニテングダケ"(Amanita muscaria)

 赤いかさがなんとも印象的なベニテングダケは西洋では幸運のシンボルとして知られております。新年の飾りや絵はがきのモチーフとしてもひんぱんに使われますし、伝説や童話にも登場するキノコ界のトップスター!なんでもドイツ菌類協会(Deutsche Gesellschaft fuer Mykologie)も今年創立100周年。記念すべき年に合わせての選考ですからさらにおめでたい!

ベニテングダケは毒キノコなので食用にこそはむきませぬが、ナラやカシといったいろいろな樹木と共生関係を築いておりまして、ドイツでも庭や森でと広くみられる大事なキノコなのであります。

実はわたくし、残念なことに本物をまだ見たことがございません。今年の抱負の一つは「ベニテングダケの姿を拝んでキノコワールドに迫ること」にいたしております。

Foto:Andreas Kunze  Deutsche Gesellschaft fuer Mykologie

引き続きましての二番手はこれ大物。

今年の木”セイヨウブナ”(Fagus sylvatica)

ドイツの森の60%ちょいを占める木ときたら、なんだ平々凡々なブナかよ、と思う御仁もいらっしゃるでしょうが、ちょいお待ちあれ。1990年に続いて2度目に選ばれたのは少しばかりうれしくない理由からなのであります。

90年に選ばれし時には地球温暖化の影響にも対応できる樹種とうたわれた希望の星も、やはり急激な環境の変化についていくのはどうも難しいようだと。干ばつ期が断続的に続いたここ20年ほどは実がバカなりするほどつくような事態もございまして、全体的に木が弱るという現象が見られておりますそうな。

ブナを通じて我ら人間がいまいちど、地球環境に思いを寄せ、行動すべしとのメッセージが送られているのをわすれちゃあなりません。

Dr.Silvius Wodarz Stiftung Foto:Hubertus Schwarzentraub

ホイホイ続くは3番手。大物のお次はちょい地味渋めのカテゴリでいきましょうか。

今年の街の植物”キリ”(Pawlownia tomentosa)

欧州にやってきたのは1834年、パリの植物園にお目見えしたのが初めてでございます。紫色の花が人目をひくキリは見栄えよし、スモッグにも強しということで街路樹や公園や庭園にとすっかりドイツでも定着いたしました。

ただ恐らく地球温暖化が影響したのでありましょう、1970~80年代あたりごろから温暖な町ではこぼれ種が道の脇などで発芽して野生化するような動きがあるそうでございます。この外来種が今後どのようになるのか、目が離せないというのが選ばれた理由なのであります。

キリの花

さあて、お次はおまちかね、無敵の四番バッターの登場です。

今年(と昨年)の野菜”トウモロコシ”(Zea mays)

知らぬ人はおりますまい。在来種の保護などによって有用植物の多様性を守ろうという団体VEN(Verein zur Erhaltung der Nutzpflanzenvielfalt e.V)が今年の顔に選んだのはトウモロコシ。こいつは遺伝子組み換えや、単一栽培による弊害といった社会的な問題が多く語られる野菜ではあります。

夏しか食べないし縁が薄いぞと思ったら大間違い、わたくしたち、意識してはおりませんがトウモロコシからとれるコーンシロップは加工食品の糖分として使われておりまするに、なんやかやと毎日のように摂取しておる可能性が高いのです。

栽培されている90%が交配種でございますが、ただやはり今一度、原点に戻って在来品種の重要性を考え、トウモロコシをインゲン豆やズッキーニなどとともに育てる南米の伝統的なミルパ農法などにもスポットライトをあてたいとVENは申しております。

トウモロコシにしたって家畜のエサみたいな扱いをうけるのは不本意だと思っているに違いありませんよ。いやホント、動物に食べさせるだけじゃ惜しいじゃございませんか。

そろそろ皆様読み疲れてきましたか。続いては中トリのお出ましですよ。

今年の毒草”ジャガイモ”(Solanum tuberosum)

誰に説明する必要もないジャガイモさん。その正体は茎が肥大化した塊茎と呼ばれるもの。茹でてよし、揚げてよし、焼いてよし、当たり前のように食しておりますが、葉っぱと若いジャガイモの緑色の部分、そして発芽したジャガイモにはソラニンとチャコニンというニンニン2兄弟の天然毒素が含まれております。

なので南米から欧州に導入された当初は毒を含んだ部分を食べて亡くなる人もおり「悪魔の実」と称されたのも無理はない。今年の毒草に選ばれた理由はそういう歴史的背景を踏まえて、きちんとした知識があれば毒草であっても家庭で栽培することができる、毒草と人間が共存することで多様性を守っていこうという願いから、だそうであります。

さあさあ、どんどん参りましょう。お次は

今年の花”ツクバネソウ”(Paris quadrifolia)

ドイツの故ヘルムート・シュミット元首相(在任1974ー1982年)を覚えていらっしゃる方はおりますでしょうか。その夫人で、自然保護がライフワークだったロキ・シュミットが設立した財団(Loki Schmidt Stiftung)が毎年選ぶ今年の花は、広がった4枚の葉の真ん中に花が咲くツクバネソウ。花の後の紫色の実がなんともかわいらしいではありませんか。

Foto:Udo Steinhaeuser


ブナやハンノキ、トネリコなどの木が育つ年を重ねた野生の森の中などで見ることができますものの、ドイツの6つの連邦州では絶滅危惧種に指定されるほど未来が危ぶまれているのです。この植物の森の仲間、ヒメアカゲラやフクロウといった鳥や動物も含めて全体的な森の環境を守ることが課題となっております。

その一歩として、この財団はハンブルグ近郊の森の土地買収をすすめています。


さてお次のラッキー7は修道院の医学、薬学を研究するヴュルツブルグ大学の先生方がお決めになったのであります。

今年の薬草”セイヨウニンジンボク”(Vitex agnus-castus)

地中海沿岸から西アジアにかけてが原産のこのシソ科の薬草、ドイツ名は「修道士のコショウ」。実はピリッと辛くって、中世の時代に修道院ではコショウ代わりにされたことからその名が付いたそうです。ご注目いただきたいのは学名についているcastus。ギリシャ語で貞節という意味でございまして男性、女性ともに性欲を減退させる効果を持ってるんだそうです。

でもってそれだけでなくって、ローマ時代やその昔からご婦人方の病にも使われてまして、ヴュルツブルク大学の先生方は薬効を科学的に調べてもっと活用できるようにされたいんだとか。

まだまだこの植物の力はかりしれないといったところ。未知数といいますか、いや可能性が広がっているということでおめでたい末広がりの八番手にバトンタッチいたしましょう。

思わずあんた誰と言っちゃいそうになるけれど小さいことは気にしない。

今年の藻”渦鞭毛藻類”(Stylodinium)

渦鞭毛藻、名前からしてもうとっつきにくい。(うずべんもうそう)類と読みます。藻類自体がマイナーなんだから知名度も人気も全くない、ないないずくしだけれど面白いやつとあっちゃ紹介しないわけにはいきますまい。

泥炭地に生きていて何でも自力で水に漂う能力を持ってるくせに他の藻にくっついて動くとのこと。それも二つの藻を人質にして片方をブレーキ/アクセルと駆動系に、もう片方はステアリングと制御系に使うから面白い。なんでこんな生き方なのか、まだまだ知られてないことばかりで、謎の解明が待たれている、という次第です。

Corinna Romeikat, Ludwig-Maximilians-Universität München

さてさて

いよいよ皆様ご注目あれ!最後の大トリを飾りまするはなんと!

ドコドコドコ…..→太鼓の音、ジャン!→シンバルの音

今年の宿根草”ウラハグサ”(Hakonea macra)

なんと、なんと、なんとを何度でも連呼しそうになる。なんと日本固有種で箱根に多く自生するイネ科の植物が宿根草業者同盟(Bund deutscher Staudengaertner)から今年の顔に選ばれました。ウラハグサでピンとこない方はフウチソウ(風知草)って名前でご存じかもしれない。
おめでとうございます!

わたくし同じ日本産のものとしても、もう鼻高々!!!

選ばれるにあたってウラハグサに大賛辞が寄せられておりますのでぜひとも引用させていただきましょう。

「その植物はあたかも波を打っては、砕け散るかのごとく、私たちを陶酔させてくれる。高い宿根草の穏やかな波の中を戯れるかのごとく、またくせのある石をも飾り立て、木や低木に甘えるかのようにまとわりつき、花壇の際を隠し、階段やポットから優雅な滝のように流れ落ちる。静と動を併せ持つ、あまりにも知られていないその名はウラハグサ」

Bund deutscher Staudengaertner HP

ウラハグサの特徴は半日蔭でもオッケー、乾燥にも強い、ナメクジもきらうというガーデニング好きにとってもうれしいことだらけ。今年ウラハグサが虎のように勇猛果敢にドイツの庭で活躍してくれることに期待しましょう!!!


それでは皆様、めでたく9人衆がそろったところで、皆様方の益々のご健勝をお祈り申し上げますとともに、今年も植物界の面々ならびに私めを何とぞ、何とぞよろしくお願い申しあげます。

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