端午三兄弟
今日は端午の節句である。
我が家は男三人兄弟だったので子どもの頃はちょっと特別な日だった。
まず、床の間にガラスケースに入った立派な兜が飾られた。
これは祖父が初孫である兄のために購入したもので近所の人形店で一番の物を選んだんじゃといつも誇らしげだった。
そして父は新聞紙で兜と刀を折ってくれた。
私も真似して折ったものだが手先が不器用なのとこういった工作系の作業が壊滅的に苦手だったので出来上がるのはヨレヨレの兜だった。
それでもその兜をかぶって刀を構えた写真が今でも残っているはずである。
兄弟でチャンバラごっこをして遊んでいると大抵少し年の離れた弟がむきになって刀を振り回してくるのでいつの間にかこちらも本気になってパシンパシンと叩いているとそのうちに泣かしてしまう事もよくあった。
幼かった弟は告げ口マンであり、すぐに小さい兄ちゃんに叩かれたと父に泣きついていた。
それを聞いた父は私をギロリと睨んで、ケンカするんならもう作らんぞと言ってゲンコツを私に落としてくるのであった。
ゴチンと叩かれると目の前に星が飛んだものである。
私は弟の奴め…と恨んだものだが五分後にはまた仲良くじゃれあっていた。
そんな遊びに興じていると母がお風呂に入りなさいと言ってくる。
その頃の我が家お風呂は五右衛門風呂で毎日祖父が薪を焚いてお湯を沸かしていた。
子どもの日は決まって菖蒲湯だった。
兄弟三人であまり広くないお風呂にぎゅうぎゅうになって浸かったものである。
菖蒲の葉っぱから何とも言えない爽やかな香りがしてどこかに旅行に来ているような気分になった。
とはいえ狭い湯船なので長湯も出来ずすぐに上がっていた。
普段はお風呂上りには牛乳を飲んでいたのだが、子どもの日はお祝いなので特別に普段は飲ませてもらえない細い瓶のオレンジジュースが支給された。
良く冷えたオレンジジュースをゴクリゴクリと飲み干すと思わずパッハーと声が漏れたものである。
子どもの日の特別なイベントはまだあってそれは祖父からの臨時のお小遣い支給だった。
その頃のお小遣いは一日五十円で大抵は駄菓子屋で使い切っていた。
私たちがお風呂上りでくつろいでいると祖父がやってきてポチ袋を一人ずつに渡してくれた。
金額は破格の五百円で日ごろの十倍の臨時収入を頂いた時にありがとう爺ちゃん!と抱きつかんばかりに感謝したものである。
母からは無駄遣いしちゃだめよと言われていたが、貯金をした記憶はないので何か子どもなりに豪遊をしていたのだろう。
お小遣い支給のイベントが終わると晩御飯である。
子どもの日の晩御飯の定番は手巻き寿司だった。
ちょうどその頃流行りだした食べ方で子どもでもお寿司を作ることができるのでとっても楽しかった。
海苔に酢飯を乗せて好きな具を巻いて食べるといかにもお祭りの日という特別感があってテンションが上がったものだ。
家族みんなでワイワイと食べた後のデザートは母の手作りの柏餅だった。
今思えばあれは柏の葉っぱではなくサルトリイバラだったのかもしれないが香りが良くてついつい二個、三個と食べてお腹いっぱいになって動けなくなった。
満腹でゴロゴロしていると定番の身長を測る儀式が執り行われた。
おっ、今年は伸びたな~と父に言われると誇らしかったものである。
そんなこんなで子どもの日はイベント盛りだくさんで楽しませてくれた家族には感謝である。
そういえば鯉のぼりも屋根よりずっと高かった。
そんな思い出を振り返り懐かしいなと思いつつ昨日の晩御飯のお話を。
ちょっといい豚肉が手に入ったのでこれをメインに。
ショウガを摺り下ろして醤油、酒、みりん、白だし、と合わせる。
玉ねぎを細切りに。
豚肉をフライパンで炒めて途中で玉ねぎを加える。
玉ねぎが透き通ってきたら合わせ調味料をザザッと加える。
しっかりと全体に味が馴染むように火を通す。
仕上げの直前にすりおろしショウガを追加してサッと炒める。
汁気が少しあるくらいで火を止めてシンプル豚の生姜焼きの完成。
副菜は鱧入りの平天をトースターで焼いた。
もう一品は大根葉を良く洗って細かく刻んでからちりめんじゃことごま油で炒めて醤油と砂糖で味付けをした大根葉の炒め物。
ぬか漬けはキュウリ。
汁物はワカメと玉ねぎのみそ汁。
うん、こんなものでしょうと思って妻といただきます。
昨日のお酒はハイボール。
あまり濃くしないように薄めに作った。
乾杯してコクンと飲むとウマいと体がヨロコブ。
では早速ショウガ焼きから食べる。
豚肉の脂が甘くて柔らかい玉ねぎもしんなりしていて食べやすい、追いショウガをしているので香りが良くて箸が進む。
ちょっといいお肉を使うとやっぱり違うなぁと思いつつモグリモグ。
平天は焼いただけだが丁度いいつまみになった。
大根葉の炒め物もちりめんじゃことの相性が良くてご飯に混ぜても美味しいだろうなと思った。
合い間にぬか漬けで一息入れて二杯目のハイボールをツピッ。
ん、んまい。
ゆっくりと一時間くらいかけて食べてご馳走様。
片づけをして早めに寝たがなかなか寝付けなかった。
今晩は子どもの日の思い出に浸りながら眠りに就こう。
久しぶりに爺ちゃんと夢で逢えたら。
縦にも横にもこんなに大きくなりました、テヘッ。