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梅雨空の枝に鈴なりびわほうし。
昨日は久しぶりに野菜の直売所に立ち寄った。
以前はお米の貯蔵庫を改造しただだっ広いお店だったのだが今年の初めに店舗の老朽化で近所のスーパーの一角に移転した。
お店の規模がそれまでの五分の一くらいに縮小してしまい品ぞろえも極端に減ってしまった。
移転当初はお客さんが多かったのだが、最近では落ち着いたのかあまり繁盛している様子が無い。
夕方に訪れると売り切れになっている商品が多くて何を買おうか迷ってしまう。
それでもタイミングが良いと旬のものが手に入る。
昨日は果物売り場でビワを見つけた。
十個入って二百五十円とやや高かったが久しぶりに食べたくなったのでかごに入れた。
他に無添加の味噌とお茶を買って帰宅した。
家に帰って早速味見でビワを洗って皮を剥いて齧りついた。
シャブッと歯がすんなりと入る。
しっかり甘くてほんのり甘酸っぱい味が口の中に広がる。
少し齧ったらすぐに種に行きついたのでクルクルと回しながら果肉を食べた。
うん、これこれと思いながら夢中で一個食べた。
思えば私が子どもの頃には実家の駐車場にビワの木が植えてあった。
毎年五月になると小さい実が成り始める。
その実が梅雨時になると黄色く熟して食べごろになる。
ビワは祖父の好物でよくおやつに出てきた。
子どもの頃はあんな種ばかりの果物よりもリンゴやブドウの方がいいなあと思っていた。
あまりに豊作の年にはとても家族では食べきれないので学校に持っていってクラスメートに配ったこともある。
意外と女子受けが良くてわぁありがとう、嬉しいと言われると鼻の下がデレデレと伸びる思いだった。
ビワは実家以外にも近所の山に自生しておりこれは食べ放題で遊び疲れて喉が渇いた体に染みたものである。
ただ難点があるとすればこの木は枝が沼に張り出していたので実を捥ごうと思ったら大きく身を乗り出すか木の根元からよじ登って枝ごと折って収穫するしかなかった。
私は身を乗り出す派だったのだが、シーズン終盤にあらかた取りつくした後でもう少しと欲張って取ろうとしたことがあった。
よいしょっと全力で手を伸ばしたがあと少しで届かなかった。
うーん、これでどうだと思い切って踏み込むとビワが鈴なりになっている枝に手が触れた。
よし、と思った瞬間に足元がツルッと滑った。
おっ、おっ、おっと思っている間に体はどんどん落ちていった。
そしてベチョッと見事に沼にハマった。
その沼は友達同士の間では底なしと言われており恐れられていた。
私もその事が頭をよぎって恐怖にフルエタ。
必死にもがいているとズズブリズブリ体が沈んでいった。
おーい助けてー!とあらん限りの声で叫ぶと近くにいた友達が気づいてくれた。
それからどこをどうやったのか覚えていないが気が付いたら沼から脱出できていた。
私は救助してくれた友達に何度もお礼を言った。
身体は全身泥だらけで沼臭いにおいがプンプンした。
ふと気が付いて右手を開いてい見るとプシャッと潰れたビワの実を握っていたことをよく覚えている。
その日家に帰ると母がまあ何その格好と言ってお風呂を沸かしてくれた。
すぐに全身を洗って母に事の顛末を話すと渋い顔をしてお父さんに言うからねと宣告された。
晩御飯を食べた後に父からこってり絞られたのは言うまでもない。
直売所でビワを見つけてそんな思い出がよみがえってきた。
うふふ、懐かしいなぁと思いつつ昨日の晩御飯のお話しを少しだけ。
昨日は鶏の南蛮漬けが残っていたのでこれをリメイクする。
何にしようかなと思ったが簡単に漬け汁を使うことにする。
漬け汁を鍋に入れて水を注いでそこに鶏がらスープの素を加える。
酸味を和らげるために砂糖を追加。
醤油と酒を入れて味を決めたらそこにキャベツのざく切り、人参の細切りを入れて火を通す。
野菜がしんなりしたらそこに溶き卵を流しいれる。
後は中華麺を茹でてスープと合わせる。
仕上げにネギを刻んで入れたらラー油をくるりと一回し。
これでリメイクサンラータンの出来上がり。
副菜はキャベツを千切りにして塩で揉んでしんなりしたら洗ってよく絞る。
そこに細く切ったシソの千切りを合わせる。
味付けは控えめにマヨネーズ、レモン、砂糖。
よく混ぜて冷やせばキャベツとシソのコールスローの完成。
昨日はシンプルにこの二品で勝負。
麺が熱いうちに妻を呼んでいただきます。
昨日のお酒もビール。
シュカッとプルタブを起こしてカッカッカとグラスに注ぐ。
ではと乾杯してククイのクイと飲み干す。
プフッ、うひーたまんないやと声が漏れる。
つまみはコールスロー。
キャベツのショリショリした歯ごたえとシソの爽やかな香りがいい塩梅で薄味にしたマヨネーズが正解。
あっさりしているのでモリモリ食べてお酒を飲んだ。
昨日は軽く飲むつもりだったのでお酒は一本でおしまい。
次にサンラータンを食べる。
黒酢で作っているのでスープの旨味が強くて深みのある味である。
味のベースになる南蛮漬けの鶏肉と野菜の出汁もいい仕事をしている。
麺を掴んでズズッと啜るとウホッとむせそうになった。
卵が絡んできてアツアツで火傷しそうになりながらもモグモグ。
仕上げに入れたラー油がピリッとした刺激で甘酸っぱさの中に辛みのある複雑な味になっていた。
中華好きの妻は美味しいねぇと言いながら夢中で食べていた。
私も負けじと箸とレンゲを駆使して勢いよくパクパク。
お酒を控えめにしたのであっという間に完食。
お腹は八分目だったが満足感は高かった。
片づけをしてデザートに渋く淹れたお茶と冷やしたビワをいただいた。
そういえばビワの木にはよくムカデがいたなぁと言うと大のムカデ嫌いの妻の顔がみるみる嫌そうになった。
こうして余計な事をついポロリしてしまうのが私の至らないところである。
いやはや湿原にハマるくらいだから失言も多いってね。
おあとがよろしいようで。