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ぱっと来てぱっと消える

 私が子どもの頃の昭和の末期には小学校の通学路に露店販売のおじさんがよく現れた。

 取り扱っている商品はその当時流行っていたアニメのキャラクターが印刷されたシールや消しゴム、下敷きなどと言った他愛もない文房具で値段は一個五十円が相場だった。

 ニコニコと愛想だけは言いおじさんが坊やこれ買って行かないと声をかけてくるとついフラフラと吸い寄せられていった。

 そこであれこれと売り物を見ているとこれとこれ一緒に買ったら半額にまけてあげるよと猫なで声で言ってくる。

 それはお得だなと思って下敷きと鉛筆のセットを二十五円で購入してホクホク顔になるのであった。

 果たしてそんなやり方で商いになるのだろうかと長年不思議だったが、大人になって同年代の人と話したときにそれは近所の学習塾やそろばん教室の営業活動で、おうちの人に渡してねと言って申込用紙やチラシを配っていたというのだ。

 あくまで文房具を売るのは宣伝のためだけで儲けなくても良かったのである。
  
 それを聞いてそういえば確か何かが書かれた紙を貰っていたなぁとおぼろげな記憶が蘇ってきた。

 なるほどと思って思わず膝を打ったがもう一つ記憶にはっきりと残っている露天商がいる。

 そのおじさんが扱っていたのはいわゆるカラーひよこで赤や緑、青、オレンジなど様々な色をしたひよこを売っていた。

 これは男子にも女子にも大人気でこのおじさんが来ると通学路は黒山の人だかりになった。

 文房具の人に比べると目つきが鋭くて何だか不機嫌な感じな事が多かった。

 買わないなら帰んなと言いながらも面倒くさそうに子ども相手に商売をしていた。

 カラーひよこ一匹の値段は確か三百円だったと思う。

 日ごろのお小遣いではなかなか手が届かない金額だったが貯金箱を割って十円玉交じりでお金を工面して買い求めたものである。

 カラーひよこ売りはある日突然現れて三日位すると忽然と姿を消した。

 どこから仕入れたかもわからない怪しいひよこたちは生命力が極めて弱く大きくなる前に大抵は病気とかで死んでしまう事が多かった。

 ごくまれに成鳥になるまで育て上げた友人もいたがそのニワトリは当然カラフルではなくごく普通の白いニワトリだった。

 そんなインチキな露天商のおじさんが手ぐすねを引いて通学路に待ち受けていたのだが、おバカな小学生は好奇心からまがい物の売り物に惹きつけられてしまうのであった。

 今はもうそんな光景を見る事も無くなってしまった。

 もっとも令和の子ども達は賢そうなので私のようないいカモにはなってくれそうもないが。

 そんな事を思い出しながら昨日の晩御飯の話を少しだけ。

 昨日は日曜日だったのでお手軽に瓦そばにした。

 牛のバラ肉を醤油、酒、砂糖、みりんでサッと煮る。

 卵を薄焼きにして細く切って錦糸卵に。

 ネギをたっぷり刻む。

 これで具の準備はオッケー。

 副菜はトマトのサラダ。

 新玉ねぎをスライスしてそこに角切りにしたトマトを乗せる。

 ノンオイルのツナ缶を開ける。

 ドレッシングはレモンとオリーブオイルとツナ缶の汁を混ぜ合わせたもの。

 これをたっぷりかけまわして冷蔵庫で冷やせばトマトのサラダの完成。

 ホットプレートを居間に運んで具材を用意したら晩御飯の始まり。

 いただきますをしてまずはサラダから。

 トマトと新玉ねぎの組み合わせはさっぱりしていい。

 ツナ缶ドレッシングも旨味があって味に奥行きがある。
 
 ホットプレートの電源をつけて加熱していく。

 温まったら茶そばを乗せる。

 ジュワッという音がする。

 そこから時おり麺をほぐしながら全体がパリッパリになるまで炒める。

 軽く焦げるくらいまで炒めたら第一弾の出来上がり。

 蕎麦猪口に茶そばを入れて上から牛肉と錦糸卵とネギをたっぷり載せて掻き込む。

 甘辛い牛肉の味と優しい卵の味とショリリとしたネギの風味が一気に口の中に入ってくる。
 
 そこにカリカリに焼けた茶そばが最後にやってくる。

 パリパリとした食感で香ばしさが半端ない。

 妻は瓦そばが大好きなので美味しいねぇと言って上機嫌だった。

 後はそばを焼いて具をのせて食べるの繰り返しである。

 三回ほどやってお腹が程よく一杯になったのでご馳走様。

 瓦そばは安価でご馳走感のあるメニューで作るのも簡単で有難い。

 本来ならここでビールをゴビゴビ飲みたいのだが休肝日なのでガマン。

 後片付けもラクチンなので定期的に開催したいなと思った。

 町の露天商、今ではもう見掛けないですよね。
 
 あのうさん臭い大人たちはどこに消えたのだろう。

 あれはあれで子どもの頃の強烈な思い出。

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