香りだけでご飯三杯はイケル
今日は土用の丑の日である。
朝からテレビのニュースでうなぎ屋さんが大繁盛している話題を目にした。
我が家では父が知人から分けてもらう天然うなぎを頂くことが多い。
捌く所から始めないといけないのでなかなかに大変みたいだが父は手先が器用なので結構上手に下拵えをする。
こだわりの強い人なのでうなぎを焼くのは炭火を使うことが多い。
タレも自家製で醤油と酒、みりんにカリカリになるまで焼いた骨を加えて即席の物を作る。
焼く時には焦がさないように真剣なので声をかけずらい。
何度もひっくり返して刷毛でタレを塗りこんでいく。
辺りに何とも言えない香ばしい香りがし始めたらもう少しで出来上がりである。
炊き立ての熱々のご飯を丼によそってその上に焼き上がったばかりのうなぎをザクザクと切ってタレをたっぷりとかけたら出来上がりである。
もちろんプロではないので肝吸いのような洒落たものは出てこない。
しかし無骨に焼き上げられたうなぎはカリカリで何と言っても香りが食欲をそそる。
頂きますをして箸でうなぎをほぐしてパクリとほお張ると口の中で美味さが爆発する。
あまりの美味さに箸が止まらない。
モリモリと食べてあっという間にごちそう様である。
今でこそ天然のうなぎを食べる機会がある事を恵まれていると思うが、子どもの頃はそれほど好きだったわけではない。
うなぎは小骨が多くて口の中でモゴモゴするのがあまり得意ではなかった。
炭火まで用意して気合を入れてうなぎを焼いている父の手伝いをしようと思って声をかけると邪魔だからあっちに行ってろと言われるもの納得がいかなかった。
初めてうなぎを美味しいと思ったのは高校生になって父に連れられてうなぎ屋に行った時である。
そこのお店は天然物しか扱っておらず注文を受けてから捌くと言う本格のお店だった。
注文をしてからたっぷり一時間は待たされるのでお腹がグウグウ鳴って出てくるのが待ち遠しかった。
父はうなぎを食べるときはお腹を空かした方がいいと言う考えですぐできそうなサイドメニューには目もくれなかった。
散々待って待ちくたびれた頃にお待たせいたしましたとお姉さんがうな重を運んでくる。
私はようやくご飯にありつけると思ってふたを開けるとふんわりととてもいい香りが鼻先をくすぐる。
たまらず頂きますをしてうなぎを頬張るとふっくらと柔らかで香ばしさも十分にあって口の中でとろけた。
うわっ美味いと思わず興奮して声を出すと父がどうだ美味いだろうと何だか得意げだった事をよく覚えている。
さすがにプロが素材を吟味して作っているうな重は驚くほど美味しかった。
あっという間に平らげてはぁ満足と箸をおくと父は長居は無用とばかり行くぞと言って席を立つのであった。
このうなぎ屋は父のとっておきのお店で何か特別な事が無いと連れて行ってもらえなかった。
私はたまに父の仕事を手伝った時にアルバイト代の代わりにここのウナギをご馳走してもらっていた。
そんな素敵なお店だが私が社会人になる頃にひっそりと閉店してしまった。
天然うなぎの高騰とお客さんを待たせても本物を出そうとする姿勢が経営を圧迫したそうで何とも残念な思いをしたものである。
今は父が作ってくれるうな丼をありがたく頂くことにしている。
ちなみに土用の丑の日は「う」のつく食べ物を摂ると良いと言われている。
うどんや梅干し、瓜や牛などが代表格であろうか。
それ以外にもこの時期に栄養を蓄える土用しじみも有名である。
そのなかでうなぎは栄養があるという事実は遠い昔の万葉集でも謡われている。
私は縁起を担ぐのが好きなので今日は父手製のうな丼を楽しみにしている。
熱々のうちに山椒をパラリと振りかけて思いっきり頬張る味わいは控えめに言っても格別である。
皆さんもこんばんはウナギいかがでしょうか?
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