実話怪談本『エニグマをひらいて』感想
わたしは怪談や怖い話が好きだ。
小学生低学年のころから子ども向けの怖い本を読み漁っていたし、大学時代に知った新耳袋もKindleで合本版が出たのに感激して全部読み直したし、洒落怖まとめや禍話やフェイクドキュメンタリーQも楽しんでいる。
ちなみに耳で聞く怪談より読む怪談のほうが好みなので、どちらかといえば読む専だ。聞いて怖い話と読んで怖い話が違うという点も面白い。
そんなわたしにとって、Kindle Unlimitedというのは、実話怪談でお馴染みの竹書房怪談文庫が読み放題となる素晴らしいサブスクである。そしてKindleストアが「Kindle Unlimitedでお客様が興味ありそうなタイトル」と勧めてくるがままに(他の積ん読から目をそらしながら)乱読している。
ある日、次はどの怪談本を読もうかな~とKindleストアをみていたところ、オススメに出てきたのがこの『現代奇譚集 エニグマをひらいて』という本だ。
※ここまでの長い前書きを読んでくれた人はお気づきかもしれませんが、今回は怪談本の感想をつらつらと書いている、フェミニズムとは無関係の記事です。
だいたいの怪談本はエピソードごとにタイトルがつけられている。
しかしこの本にはそれがない点がとても新鮮だった。
あらかじめ題名がつけられている怪談の場合、読む前から関連情報を得ていることになるので、読者は常に若干ネタバレしている状態で読むことになる。
たしかに、語り手が謎体験をしているときは前情報がないはずだし、無題にすることで読み手にとっても同じ体験をしているような臨場感があったように思う。
そして感想を書くためには小タイトルがないと不便だろうというので、折衷案として巻末に各話の仮題入りの目次があるところも親切設計。
各エピソードに入る前に著者ならではの「怪談考」的なエッセイが挿入されていて、どれも読みごたえがあった。
その中でも
1-8 幽霊の物理的な性質に対する考察
5-6 怪談の疑似二分論
5-7 音楽と幽霊の類似性
が特に良かった。
1-8での幽霊の物理的な性質に対する考察について、わたしは「もし幽霊が存在するとして、死んだ時点である特定の座標に固定されるのならば、地球は常に自転・公転しているし、宇宙は常に膨張し続けているから、幽霊は地球上の同じ場所に留まっていられないはずだ。なぜ一般的な幽霊は(壁を通り抜けられるなどの例外はあるとしても)生きている人と同じように重力の影響をうけて地表近くに留まったままで、宇宙空間に放り出されないのだろう?」と不思議に思っていたので、同じように考えていた人もいるんだ~!と感動したし、著者なりの結論にいたるまでの論理展開に納得した。
(わたしは霊感がまったくなくて実際にみたことがないので、幽霊の挙動については伝聞や読んだエピソードを参考にしている)
著者のnoteで四話分試し読みができる。
この本は自主出版された電子書籍なので書籍という実体では存在しない。
っていうか、もしKindleストアがこの世のどこにも存在せず誰も知らない怪談本を勧めてきたとしたら怖すぎる。
その読書体験自体が怪異現象じゃん。
わたし以外にもこの本を読んだ人いるよね!?ね!?トトロいたもん!!(?)という確認の意味でも、こうやって本の感想を書かせてもらった。
最後にわたしが特に好きなエピソードを短く紹介する。
上から気に入ってる順。
(ネタバレが嫌な人はスルーしてください!)
・5-6 「鬼」なぜか小日向文世さんで再生された。意味が分からないのにその後の変化が決定的すぎるし、映像化向きのビジュアル。
・5-2 「シンシア」誰がどんな目的で招待したのか意味が分からなすぎるし、わたしも握手してみたいような、してみたくないような……
・5-7 「真夏の夜の音楽」怖さ自体はそんなにないものの、舞台となるベトナムの異国情緒ある描写が良かった。他者から聞いた話をここまで映画のように書けるのはすごいと思う。
・3-3 「人間の置物」近くにあったらなんだかんだ通っちゃいそう。
・2-4 「溶解」登山が趣味の人ってこういうのに遭遇するの…?このエピソードに限らず、「2章 峰で、森で、谷で」は山の話ばかりで、わたしはもともと登山はしないけど、山はこわいので今後も絶対行かないと思う。
以上です。