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【ネタバレ有】『プロジェクト・ヘイル・メアリー』感想

SF小説が好きです。

特に好きなのは『新世界より』や『渚にて』『ザ・ロード』のような終末観あふれる、寂寥感あふれる作品なのですが、一方で『星を継ぐもの』や『幼年期の終わり』『火星年代記』のようなこちらの想像の及ぶべくもない広い世界を味わわせてくれるものも好きです。

当作品はその中間に位置しつつ、読後感の満足度と感動はここ数年の中でもぶっちぎりの、本当に最高のSF小説でした。ということで初めてnoteでSF小説を紹介します。


【抜粋したあらすじ】
「グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。
ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った……。」

とのことで、設定としては結構見る気がする、「終末を迎えた人類が、一縷の望みをかけて宇宙に飛び立つ」ところから始まります。記憶を失った主人公が目覚めるところから始まるので、主人公視点はまま読者視点となりますね。ただ、『2001年宇宙の旅』よろしく、とにかく主人公は孤独な戦いを強いられます。その中で記憶と手がかりをもとに、徐々に開拓をしていく様は、昨今だと週刊少年ジャンプに掲載されていた『Dr.STONE』なんかに読み味が近かったです。『Dr.STONE』一流の孤軍奮闘DIYで0から手がかりを作っていく主人公ですが、それと同時並行する過去編では尋常ならざるスケールで人類終末を食い止めようとするプロジェクトが進められます。こちらの過去の読み味は『日本沈没』や『シン・ゴジラ』なんかに近いかもしれない。要は、自分の好きな作品の良いとこどりな作品なんです。(パクリってわけではないです、むしろオリジナリティの塊)そらハマるわ。

などと油断してたら上巻の最後らへんかな?で、完全に予想外のことが起きるのです。おいこれマジかよ。


【ここから重大なネタバレを含みます】














まさかの異星人邂逅&バディもの!!
そしてその読んだ人の100人中99人が言うと思いますが、このバディ=ロッキーのキャラクターが素晴らしいこと!!!

本作の名作っぷりを決定づけるもの。それはこの緻密かつ想像を超える広大なストーリーテリングではなく、屈指のキャラクター:ロッキーでした。

地球と同じ理由で絶滅の危機に瀕した異星からの来訪者と地球からの来訪者の邂逅。古今東西異星人とのコンタクトは良かったり悪かったりですが、このロッキーはもうなんというか愛おしくて愛おしくて。現代風に言うとこれがいわゆる「尊い」というやつなんでしょう。後編の後半は、ずっと心の中で「あーっあーっ」という言葉にならない言葉が渦巻いていました。たまにはいいじゃないですか。こんな素敵なファースト・コンタクトがあったって。広大な宇宙に孤独に出会った同士なのだから。というこの強大な脅威に異種族同士がバディを組んで挑むというスタンスこそ、『寄生獣』『うしおととら』をはじめとした大人気作品のカタルシスそのものだったりするわけですよね。そら、それが成功してんだから全世界で流行るわけだよ。

というロッキーとのすったもんだがあり、様々な途方もない障害を潜り抜け、互いの星の数十億の生命をかけた戦いが下巻では繰り広げられます。ただ、ロッキーとグレースのキャラクターのおかげであくまでもその語り口は軽妙で物語が必要以上に重くなるのを防いでいます。このグレース、頭脳は尋常じゃなく良いのですがそれ以外はいたって凡人。そもそもこの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』に乗ったのも全く持ってヒロイズムとかではない理由から。しかしそんな彼が成長し、ロッキーと唯一無二の絆を築き、そして後半はああなっていく。読み終えた後のえもいえぬ心の充足感。こんな感覚を味わったのは本当に久しぶりでした。人生ベスト10には確実に入るであろう素晴らしいSF小説です。映画化も進行中とのことで、名作になることを心より祈っております。

…ということで久々の長編小説読書体験だったのですが、やはり良いものですね。最近いろんなことで忙殺されすぎていて全然読めてなかったので、これからはまたちょいちょい読んでいきたいと思います。そしてnoteにも、お気に入りの小説を少しずつ紹介出来たら、と思います。自分の備忘録のためにも。

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