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書店と、恋と

過去のお話です。

東京都内、西武池袋線。駅前に佇んでいる本の販売兼DVDレンタルのお店。
週4日アルバイトをしている私の居場所です。

早番から遅番まで4シフト制で、専門学校生の私は休日も合わせると全シフトを担っています。

早番の仕事は、当日発売の本たちがトラックで運ばれくるので、総出で本の束を荷下ろします。そしてまたそれらを売り場まで、えっさほいさと腰を痛めながら運び、各コーナーまで。
そのまま棚に1冊ずつそっと置いていきます。
そのあとは開店準備をして、お客様を迎えます。
お客様に選ばれた本を販売したり、コミック本にシュリンクという透明カバーをかける作業をしたり。棚にある本たちの陳列を整えたり。
たのしい時間です。私は本が大好き。

日勤や遅番にもそれぞれ役割がありますが、どれも私にとっては有意義な時間で、学生生活とはまた違った時間の流れを感じることができています。

ある日の遅番、閉店間際の0時過ぎ、1人の若い男性が来店されました。
大学生かな?私と同じくらいかな。彼も遅くまでアルバイトしていたのかな、勉強かな、友達と遊んでいたのかな。
他にお客様もいなかったこともあり、そんな考えを巡らせていた。

彼と目が合う。こちらに向かって歩いてくる。
口元を見ると分かる。あ、何か話されるな。
「あの、本を探しているんですけど、手伝ってもらえませんか。」

もちろん、それが私の仕事だもの。

「広辞苑を探しているんです。」

さすが、やっぱり大学生かな。きっとしっかり勉強されている方なんだ。
お店の1番奥の1番上の棚。脚立を持ち出して手を伸ばす。
彼は脚立を押さえてくれて、さりげない優しさに感謝です。

やっとこ広辞苑を取り終えお渡しすると、彼から感謝の言葉と共にもうひとつ言葉が聞こえてきた。

「あの、彼氏はいますか?よかったら、付き合ってほしいんです。」

言葉が出ない、というのを初めて経験した。頭の中、空っぽ。
でも、率直に嬉しかった。告白されるって、嬉しいな。
申し訳なくも、お付き合いしている人がいたこともありお断りしたけれど、
嫌な顔1つせず聞いてくれた。

広辞苑は買われずに、お店を後にされた。


何年たった今も、いい思い出。

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