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撲殺/密告
たぶん、ユニコーンだったと思う。
窓のカーテンの隙間から、深夜、コンビニの駐車場でからかわれるユニコーンが見える。3・4人の酔払いに取り囲まれ、サッカーボールのように足蹴にされている。実際に見たことはなかったが、一角獣、と訳すのなら間違いない、頭のてっぺんから長い角が生えている。小型犬ほどの体には不釣合いに長い、長すぎる角が、螺旋ネジのように伸びているのだ。酔払いたちは、いけすかない無教養をひけらかし、およそ正しい行使とは思えない暴力の嵩に隠れている。いちばん始末に負えない、負け犬がたまたま玉座に座るパターンだ。うつろに嬲られ、ユニコーンはかぼそい声でひと鳴きした。そのとたん、コンビニの店内から、うじゃうじゃユニコーンの群れが現れた。どこに隠れていたのか、何匹も、何十匹も、あとからあとから加勢する。逃げ遅れた酔払いが、一人、よろける。と、夥しい成獣の群れが覆いかぶさり、完膚なきまで打ちのめす。驚いたのは、鋭い角で突き刺すのではなく、取り外した角を棍棒代わりに用いたことだ。すっくと二足歩行で歩き、空いた両手で棍棒を力一杯に握りしめる。着ぐるみでも着ているかのように、意志ある者の風貌を纏う。だが、もっと人知を超えたのは、棍棒の角で殴り続けた時間なのだ。その残忍さだ。1時間も、2時間も、はじめは叩くたびに洩れ出た声が、そのうち肉塊のチョップ音に変わり、とうに命の灯が消えたあとも、ただただ一定間隔で角を打ち続けたやつらの野蛮さ……。もとより人間とは言わないが、なんにせよ架空の生物でもないかぎり、あれほど無残に殺すことなどできるものか……。
しまった。やつらに見つかった。部屋の灯を消し忘れている。夜更けにカーテンから洩れる光は、暗闇の灯台ではないか。いや、何も見ていない、何も知らない。何も見ていない、何も知らない。そうだ、何も見ていない、何も知らない。何も見ていない、何も知らない。
やはり、どう考えても、ユニコーンだったと思う。