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パーフェクトな偶然

ある男が自殺を企てる。体中にガソリンをかけ、首にロープを巻き、そのロープをしっかりと木の枝に結びつけて、こめかみにピストルを向ける。完璧だ。準備万端、手抜かりはない。男はライターで体に火を点け、同時に木から飛び降りながらピストルの引鉄を引く。

幸か不幸か、男の手元が狂う。ピストルの弾丸はこめかみに当たらず、ロープを切ってしまう、男は木の下の湖水に落ちる。

「ものすごい偶然ですな」と銀の斧が言う。

「生も死も、そうですな」と金の斧は笑う。

肩で息をしながら、湖から這いあがった男は顔面蒼白だ。「いや、もし泳げなかったら、危うく溺れ死ぬところだったぞ……」。

メシアはやってくるだろう――もはや必要なくなったときに。到来の日より一日遅れてやってくる。最後の日ではなく、とどのつまり、今際のきわにやってくる。

「メシアの到来」



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