もう一つの森を作る
地球第三の森 竹村泰紀 著
紫洲出版
なかなかに挑戦的なことを書いている。
都市を「森」にしてしまおう、というもの。
「森」の機能はまず、二酸化炭素の吸収と貯蔵、酸素の供給、水の確保と貯蔵。
木々は光合成によって二酸化炭素を取りこみ、酸素を排出する。そうやって成長し、幹を伸ばし、葉を茂らせ、根を張ることで表面積が大きくなることで森に水が貯蔵される。
また、森が蓄えている大量の水は大気中に蒸発することによって、上昇気流が起きて雲ができ、雨を降らせる。
そんな森にはたくさんの生物が住む。
生き物に住処や隠れる場所を提供するし、果実などの食料も生産される。そして、果実を食べる生き物が集まれば、その生き物を食べる肉食の生き物もまた集まってくる。
さらに、森にはたくさんの微生物が住み着いていて生き物であったり、森の木々を土に還す。それによって土壌中には養分が蓄えられ、また次の命を生み出し、新たな資源となる。
そんな地球上の生命を支えている「森」はふたつ。
一つは地表の森、そしてもう一つ海藻林やサンゴ礁など海の中の森。
そこに「都市に森の役割を持たせて第三の森としよう」というのが本書の内容。
表面積や高さから言えば従来の森よりも都市の森の方が容量は大きくなって、格納できる生物や産生できる資源も多くなる、という。
まあ確かに、樹の高さは広葉樹で30m、針葉樹でも100m程度なのに比べ、人工物は800mを超える。
将来的には1000mを超えるだろう。
その高さの構造物に森の機能を持たせれば、大気中の水をもっと回収したり、生き物の住処をたくさん作ることができるかもしれない。
ぱっと聞くとサイエンスフィクションの領域で「そんなことできるのか」と思うのだが、テクノロジーが発達した現代であれば夢物語でもない、という。
うーん、でもそれは本当なのだろうか。
超高層建築を含む都市に樹々のような水回収機能を付与すればたくさんの水を利用することが可能になる。これはできそうな気がしなくもない。
ぼくが気になるのは「都市の排出物を分解して再利用するシステムを組み込む」という点。
機能としてできなくはないだろうけれど、都市のごみはそれはもう量が半端ない。
採取したり食べたりするのはすぐできるが、消化・分解するには分解者が存在するスペースはもちろん、長い時間が必要になる。
絶え間なく膨大な量のゴミを再資源化するという理屈は確かに通るけれど、物理的にそれが可能なのかというと疑問が残る。
もちろん、「第三の森」は水や資源の調達貯蔵、再利用のすべてをまかなうのではなくそのような機能を新たに創出するひとつの手段だ。
陸、海、都市の三つの森が共存共栄していく世界が最終像だ。
実現可能かどうか、という点より、「第三の森」をどう作るか、という点に着目すればとても興味深い。
本書では最後に、「この本を読んだあなたが描く、陸、海、都市の三つの森が共存共栄していくイメージってどんなの?」という問いが出される。
うーん、どんなだろう。
実現可能かどうかは置いておいて、人工物と自然物が交じり合った景観というのはとても面白いと思う。
都市産の野菜であふれてて、蛇口をひねると大気から採取した水が使えるなら、豊かな気がする。
天然のジャングルと都市が混ざったらおもしろい。枝が重なり合うように回廊でつながりあって、その都市固有の生き物が高層ビル群に住んでいたり。
浅い海で海上の森林都市なんか作れたらわくわくしてしまう。
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