千の焦点を揺らして・序章:フルサトは語ることなし(坂口安吾全集リミックス)
炳は雪しかない国で生まれた。生誕の座標は、サカグチ家。意識なるものが暴発する日以来、彼は太陽に郷愁を抱き、南国の空を気候のゆりかごにした。だから、炳。(辞書を引く)その名前に光があった。名前が、光そのものだった。親が名付けたというより、自分自身が付けた名前であったと、そう決めていた。だが、炳の歴史はここで終わる。ある(封鎖された)教室で、ある教師によって。それ以降、彼の人生は「アン」として銘記される。そのように銘記されるべきだと、彼は決定を下した。下した瞬間、はじめて「腑に